第101話 セイの覚悟 ジャンヌ・ダルク篇 完結
「こちらの世界のでからだを鍛えたり、武術を身につけることが、あちらの世界の力になるからね」
そう言って聖は手のひらに拳をパーンと打ち鳴らした。
通学路の途中の駅にあるボクシングジムに、入会の申し込みをした聖は、からだがうずうずして仕方がなかった。ついシャドーボクシングのまねをして、ワンツーパンチを繰り出してみせる。
「で、ボクシングなの?」
かがりが納得のいっていない顔つきで尋ねてきた。
「ボクシングだけじゃない。剣術ももっとスキルをあげるつもりさ。なにせぼくの能力は、『武器』それも日本刀だからね」
「だったらボクシングは必要ないと思うけど……」
「いや……武器を手にしないとなにもできないって、いうのは嫌なんだ」
聖は自分の拳を見つめた。
あのときこの世界の自分にボクシングの素養があったら、あのイングランド兵を倒せたかもしれない……
ふと、そんな思いが頭をよぎったが、あたりで聞こえた女性たちの声で我にかえった。
気づくと、まわりに下校中とおぼしき女子生徒たちが、グループになって駅のほうへむかっていた。
その女子高生たちは、メイクをしっかりほどこし、目にカラーコンタクトを入れて、おしゃれを楽しんでいるようだった。制服こそ着ていたが、胸元のボタンをはずして、さりげなく胸元をアピールしているうえ、スカートの丈もあきらかに短かった。
「このあたりに女子高があるみたいね」
かがりが不機嫌そうな口調で言った。
女子高生たちはたわいもない会話ではしゃいでいたり、だれかとスマートフォンで電話しながら歩いていたり、スマホに顔を突っ込むようにして、夢中でなにかを入力していたりした。
聖はそんな女子高生たちを見やりながら、ぼそりと呟いた。
「おんなじ青春だったのにな……」
「なに?」
「うん…… あの子たちジャンヌ・ダルクとおなじティーンなのになって…… 彼女は17歳のときに神の声に導かれて、戦場で戦って、19歳で死んだんだ」
「ああ……うん……そうだったわね。でもわたしたちだって、そうでしょ。もうすぐ高二で17歳になるもの」
「だから、こんな青春を送れていること、感謝しないといけないね」
「なあに? 聖ちゃん、年寄りくさいこと言わないでよぉ」
「年寄りくさい? かがりにはそう聞こえるのかい?」
「ええ。じゅうぶん、じじくさいわ」
「じじくさい……オーケー、オーケー、気をつけるよ」
そのとき、ピコンという音がして、ポケットのなかのスマホが震えた。
聖はスマホを取り出して画面を見るなり言った。
「おじさんからだ。緊急ダイブだってさ」
「ええっ。せっかくだからスイーツの店、寄ろうと思ったのに…… まったくお父さんったら気が利かないっ」
「はは、そんなこと言わない」
聖は笑いながら、もう一度スマホ画面に目をやった。
スマホの待ち受け画面に目を細める。
その待ち受け画面には、天使とユリの絵が描かれているジャンヌの三角旗の写真が貼付けられていた。
ジャンヌ・ダルク篇 完結
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本当に申し訳ございません。
体調を崩してしまい、執筆の時間も意欲もとられてしまいました。
このあと、おおきな展開の章があったのですが、そこに注力できそうもないです。
大変残念ですが、いったんこの「サイコ・ダイバーズ」は完結とさせていただきます。
体調が戻れば、ぜひとも頑張りたいと思います。




