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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
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第100話 聖ちゃん、大丈夫?

 聖がプールのなかで半身をおこしたあと、身じろぎもせずぼーっとしているのをみて、広瀬・花香里(ひろせ・かがり)は僕とした不安にかられた。

 やはり潜らせるべきではなかったのではないか、という後悔がからだを駆け巡る。


「聖ちゃん」

 おそるおそる声をかけてみたが、聖はかけたゴーグルをはずそうともしない。

 かがりがもう一度声をかけようとしたとき、マイクを通して父の輝雄の声が室内に響き渡った。

『聖、ご苦労様だった。患者のヤニス・デュランド氏が意識を取り戻したよ』

 その報告に聖はほんのわずかに首を縦に動かした。


「聖ちゃん、大丈夫?」

 かがりはその瞬間をのがしてなるものか、とばかりに声をかけた。が、聖は先ほどよりさらにかよわい首肯で返事してきた。かがりは自分がこんなにも心配しているのに、つれない反応しかしない聖に、すこし苛立ちを感じた。

「ちょっとぉ、聖ちゃん。任務完了したのよ。どうしたの?」


 ちょっとだけ怒気を含ませたのに、聖の反応は鈍かった。いつもなら任務が終わるやいなや、装具をさっさと解いて『腹が減った』だの、『頭がくらくらする』だの言って、すぐにシャワーを浴びにいっているはずだった。

 かがりはいてもたってもいられず、プールのほうへむかうと、聖が座り込んでいる水槽に近づいた。

「ねぇ、聖ちゃん、今度はヴァイタルデータ、問題なかったわ。任務も完了したから、もうプールからあがろうよ」

 そう言いながら聖の顔に手を伸ばして、ゴーグルをひきあげた。


 聖は泣いていた——


 かがりにはそう見えた。

 聖はすぐに目元を手の甲で拭って、いつものようににこりと笑ってみせたので、確信できなかったが、かがりはその様子にドキリとした。次のことばを発せない。


「ごめん、かがり。ちょっと……」

 聖は濡れた頭をかきながら、気まずそうに言った。

「なに……なにがあったの?」


 聖はすぐに返事をしようとしなかった。一点をぼうっと見つめたまま、なにか考え込んでいるようだった。


「救えなかった……んだ……」


 しぼりだすように言った。

「救われたわよ。今、お父さんが患者さんは意識を取り戻したって」

「ジャンヌを……ジャンヌ・ダルクを救え……なかった……」

「ジャンヌ・ダルクを?」

「ぼくがかならず救うって、約束したのに……果たせなかった……んだ」

「え……で、でも……患者さんが救われたんだから」

「うん、わかってる。でもね……」

 そこまで言って、聖は自分の目元を手のひらでおおうようにして押さえた。


「救いたかった……救ってあげたかった……」

 

 聖はそれ以上なにも言わなかった。

 ただ肩をふるわせて、声を殺して泣いていた。


 かがりにはどう声をかけていいのか、まったくわからなかった。

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