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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
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第99話 ジャンヌ・ダルクよ 永遠なれ

 群衆のなかから声があがった。セイが広場中央のジャンヌのほうに目をやる。


 ジャンヌの足元に積み上げられた薪から、真っ赤な炎がたちがっているのが見えた。ジャンヌは五指を組んだまま、一心に神へのことばを口走っていた。その顔の前にはイザンバール・ド・ラ・ピエール修道士が教会から持ってきた、長い十字架が掲げられている。修道士は自分に火の粉が降りかかるのもいとわず、できるだけジャンヌの眼前にくるおうに必死に手を伸ばしている。


「主イエス様、聖ミカエル様、聖カトリーヌ様、聖マルグリート様……」

 おびただしい煙にむせかえりながら祈りを唱えているジャンヌ。


 セイは拳を握りしめたまま、さきほどのイングランド兵の前を突っ切ると、そのまま火刑台に走り抜けようとした。

「小僧!」

 イングランド兵がセイに掴みかかって止めようとする。セイは渾身の力をこめて、イングランド兵の腹を鎧越しに殴りつけた。 

 ガコンという金属音が響いたが、その場にセイは拳をおさえたまま倒れそうになった。


 そこに能力(ギフト)の力はなかった。

 ただの高校生が鋼でできた鎧を、素手で殴りつけたにすぎなかった。

 全身を走る痛みにひるんだセイは、背後からイングランド兵の警棒に打ち据えられ、地面に押さえつけられた。

 地面に顔を押し付けられるセイ。


「ジャンヌ……」

 セイは砂塗れの顔をあげて、ジャンヌにむかって声をもらした。その顔は涙に濡れていた。自分の無力さが悔しくて、そして情けなかった……


 あたりにたちこめるもうもうとした煙で、ジャンヌの姿はかすかにしか見えなくなっていた。


「ジャンヌぅぅぅぅぅぅ」

 セイは這いつくばったまま、大声で叫んだ。

 ジャンヌはその瞬間、カッと目を見開いた。そして目の前に掲げられた十字架へ必死で手を伸ばした。


 その瞬間——


 ジャンヌの全身を炎が包み込んだ。


「イエス様!!!」

 ジャンヌが悲鳴とも思える声をあげた。


 セイの脳裏にいままでのジャンヌとの思い出が去来した。


 顔を黒くしたセイの顔をドレスの切れ端で拭うジャンヌ——

『これはドムレミ村でジャネットと呼ばれていた娘の服…… 男として戦場へむかうジャンヌにはもう必要ありませんわ』



 犠牲者に敵も味方もなく祈りを捧げるジャンヌ——

『だって、そうでしょう。セイ。聖職者に自分の罪を懺悔して許しを受けることなく、命を落としたのですよ。彼らは天国の門をくぐる資格がないのです』


 りりしく先頭に立ち自軍を鼓舞するジャンヌ——

『ひくな! 戻って戦いなさい! みなには神がついています! さあ、わたしとともに勝利を!』


 勝利に浮かれ、祝宴をあげる兵士たちを前にして覚悟をあらわにするジャンヌ——

『明日、レ・トゥーレル要塞に攻撃しかけます! そして橋を奪取し、その橋から、オルレアンへ凱旋します』


 矢を胸に受けて涙するジャンヌ——

「痛いんじゃないの。神の御心に導かれて、ここまで来たのに、もしかしたらそれを果たせず死んでしまうかもしれない、って思ったら……怖くなって……」

「大丈夫。きみはそんなことにならない」


 意義を口にするラ・イールたちにむかって胸をはるジャンヌ—— 

「はい、セイはわたしの小姓です。ですが、『ただの』ではありません……』


『未来からきたわたしの守護神です」




「うわぁぁぁぁぁぁ……」

 セイは組み伏せられたまま、地面に突っ伏して泣き叫んだ。


 そのとき、サン=ローラン教会の鐘が一斉にうち鳴らされた。

 広場中にその音が谺するなか、広場から一羽の鳩が空高く舞いあがっていくのが見えた。

それはまるで燃えさかる炎のなかから、飛び出してきたように見えた。


 白い鳩は黒い煙のまわりをくるりと一周すると、青空にむかって翼を羽ばたかせた。なにかに招かれるように、フランスの奥地を目指して飛んで行った。


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