第92話 街中からあがる歓声
セイは路地のほうを見おろして、戦いを見あげているジャン・ド・メスにむかって叫んだ。
「メス! あなたはジャンヌの元へむかってください!」
その声にハッとした様子をみせたかと思うと、ジャン・ド・メスは広場がある方向へ足早に、駆けていった。
セイはすぐに自分の足元から上空へむけて、刀を等間隔に並べて刀の階段をつくると、一気に駆け上がった。からだに無数の刀剣が突き立てられて、混乱しているハマリエルの虚をつく作戦だった。
ハマリエルはもがき苦しむように、体躯を揺さぶりながら、からだに突き刺さった剣を引き抜いていた。
そこをセイは狙いすました、
ハマリエルの上空のやや後方から飛び降りて、ハマリエルのうなじを狙った。
飛び込むようにして、うしろから首を横一閃しようとしたセイのからだを、ハマリエルのビームが狙い撃ちしてきた。うしろをむいたまま左腕だけをこちらにむけて、正確に5本のビームを撃ってきた。
セイは着弾する寸前で、そのビームを回避していた。自分のうごきと連動させて、一緒に落下させていた鞘におさまった刀に瞬時に手をかけ、中空で落下を制動したのだ。
「は、勘のいいガキね」
「あんたがあの程度でもがき苦しむわけないって思っててね」
そのとき、ふいに下方の街中から、わーっという歓声が聞こえてきた。それはまるで台風の暴風のような轟音で、セイはおもわずその方向を見おろした。
セーヌ川にかかる橋からすこし中にはいった先にある、ヴュー=マルシェ広場からだった。そこは建物がひしめく街中にある開けた空間だったが、今は中心部分をぽっかりと
とりまくようにして、ひとびとで埋め尽くされていた。
そしてその中心にジャンヌ・ダルクがいた。
ジャンヌ・ダルクは粗末なワンピースを着せられ、手を鎖をつながれ、頭には紙でつくられた筒状の帽子をかぶされていた。その帽子にはなにかが書かれている。
「ジャンヌ!!」
セイが大声をあげると、ジャンヌはちからなく空を見あげた。やつれた顔、かわいたきちびる、そしてうつろな目。だがその視線は中空で刀にぶらさがっているセイをしっかりと見ていた。
神の子、セイ——
ふっと頭のなかにジャンヌの声が聞こえてきた。
セイは幻聴でも聞こえているのではないかと思った。だが、こころの声でそれに答えた。
ジャンヌ、あきらめないで。ぼくはきみを救いにきた。
ありがとう……
でももういいのです。わたしは主の元へ召されるのですから……
そうはさせない。ぜったいに救ってみせる。
だからハマリエルを倒すまで、すこしだけ時間を……
またあおの邪悪な者が神の子を邪魔しているのですね。
ならば、セイ。紙のお力を借りなさい……
主は製なる力をもつあなたに、力を添えてくれるはずです。
神の力を?
どうすれば?
そうセイが心奥で問うと、ジャンヌはかすかに微笑んで街の一角のほうへ目をむけた。
そこに教会があった。




