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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
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第89話 シャルルの戴冠式

 ランスのノートルダム大聖堂——

 10階建てに相当する40メートル近い高さと、100メートル以上の長さの威容を見せつける身廊(NAVE【中央通路】)を王太子シャルルを先頭に、王の側近たちがかしこまった様子で歩いていく。

 緊張のせいか、その表情はみな硬い。

 だがシャルルのすぐうしろで、王冠を掲げもちながら続くジャンヌ・ダルクの表情は、上気して誇らしげだ。

 ジャンヌは祭壇へ到達すると、待つ受けている大司教ルシアン・ボワゲリーに王冠を手渡し、側近から軍旗を受け取った。ジャンヌは大司教の前にかしずく王太子の右横に侍ると、凛とした表情で旗を掲げた。そしてその反対側で胸をはるジル・ド・レ。

 大司教がひざまずく王太子の頭の上に王冠を載せながら宣言した


「父と子と精霊の御名において、そなたを国王とする」


 そこにいる人々の間から歓声が巻きおこる。

 ジャンヌは背筋を伸ばしたまま、うれしそうに相好を崩した。

 ほっとしたような、それでいてこれ以上なほど満足そうな表情——

 そんなジャンヌの顔をジル・ド・レは誇らしい気持ちで見つめていた。

 ふとジャンヌと目と目があう。かすかにまぶたをとじたその目には、ジルに対する感謝の気持ちが感じられた。

 ジルは身悶えするほどの、恍惚とも言えるほどの、高ぶりを覚えた。


「あのとき……」

 ジル・ド・レはぼそりと呟くように言った。

「ぼくはジャンヌとともにフランスを、母国を取り戻すために、この命を賭してもかまわないと、こころに誓った……なのに……」

 ジル・ド・レは滂沱の涙を流しながら、声を詰まらせた。

「ジル、まだ間に合う……」

「ぼくはジャンヌを救えなかった。彼女の計はもうすぐ執り行われる」

「もうすぐ?」


「刑は今月中におこなわれる。もうだめなんだ……」

 崩れ落ちるようにして、床に頭をつけたジル・ド・レが泣き叫んだ。

 セイはこれ以上はジル・ド・レを説得するのは難しいと悟った。



 ジル・ド・レはジャンヌが捕らえられたことで、ジルの心は次第に荒んでいった。悲嘆のあまり元帥の地位を辞退すると、このティフォージュ城に引きこもり、湯水のように財産を浪費し錬金術に耽溺した。やがて「自称」錬金術師にそそのかされ、黒魔術にふけると、手下に少年を誘拐させて、凌辱し、虐殺し、それを楽しんだ。その数は150人とも1500人とも言われる。

 この悪行が表ざたになると、ジルは全てを告白し泣きながら懺悔し、ジャンヌとおなじ火刑の執行を願った。このためジル・ド・レは絞首刑ののち、死体を火刑にするという処置がほどこされた。


 ジルはのちにペローの童話に登場する殺人鬼『青ひげ』のモデルとなったと言われている。


 

 セイが城の外にでると、中庭にジャン・ド・メスが立っていた。先ほどまでの落胆にくれる暗い顔つきは消えうせ、そこにはなにかを決意したような引き締まった表情に変わっていた。

「セイ、ジル・ド・レ様はやはりだめでしたか……」

「うん。ぼくらだけでジャンヌを助けるしかない」

「神の子セイ…… わたしたちふたりだけで、あのお方を助けられるでしょうか?」


「もちろん……いや、わからない……」

「わからない?」

「ジル・ド・レがあの化物、倒したはずのハマリエルが生きていた、と言っていた」

「なんと! だから元帥は早々に撤退を命じたのか……」


「だけど……ぼくはやる。ジャンヌを救ってみせる」


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