第84話 聖は一週間昏睡していたことを聞かされた
聖は医師からまるまる一週間昏睡していたことを聞かされた。一度は重篤な状態になって、命も危ぶまれる状態であったらしい。
だが、聖は自分のからだのことより、不覚にも自分の魂がドロップアウトしてしまったジャンヌ・ダルクの時代がどうなったかが気になって仕方なかった。叔父の輝雄がやってくると、自分の体調などおかまいなしにまくしたてた。
「あの患者の意識はどうなってますか? もう一度潜る余裕は残されていますか?」
「聖。まずはおまえの身体の回復のほうが先だ。気にしなくて……」
「そんなわけにはいかないんです。あの患者の前世にはもうひとり別の人が潜ってて、そのひとはトラウマに命を奪われたんです」
「なにを言っている? 聖」
輝雄は心底驚いた顔をしていた。
聖は自分がダイブしたジャンヌ・ダルクの時代で、リアムというダイバーと出会ったこと、ハマリエルと名乗るトラウマと共闘したこと、そしてハマリエルを倒すためにリアムは命を落としたことを語った。
「ネットワークで繋がれている状態では、別の組織のダイバーが同時にダイブすることがある、と聞いていたが、ほんとうにそんなことがあるとは……」
「リアムさんが命懸けで要引揚者を現世に戻そうとしたのに……」
「ああ…… 残念だが患者の魂は、前世に落ち込んだままだ」
「このままだと、リアムさんの死が無駄になってしまう。叔父さんが無理やりぼくを引き揚げなければ……」
「いい加減にしなさい。聖、おまえは死にかけたんだ。強制引き揚げをしなければ、どうなったかわからんのだぞ」
「そうよ、聖ちゃん。わたしたちがどれほど心配したと思ってるの! お父さんもぎりぎりの判断だったのよ。聖ちゃんに後遺症が残るリスクだってあったんだから!」
輝雄とかがりに責立てられて、聖は口をつぐんだ。
「……」
「聖、おまえのミッションを果たせなかった無念の気持ちはわかる。だが、おまえの命と引き換えにやるべきことではない。わたしもは昏睡病の患者を救いたいと思っているが、おまえの命や健康あってのことだ。それが担保できないのであれば、わたしは患者のほうを見限る」
「見限るって……」
「おまえが引き揚げられなかった魂は、なにもしなければ、そもそも助からなかったものだ。家族には、今回は運がなかった、とあきらめてもらうしかないだろう」
「そうはいかないよ」




