第79話 なぁに まだ死んでなかったの?
セイは前に出ようとしたが、今度はハマリエルの左手からビームが撃ち込まれ、さらに後方へとよけることになった。
「近づけさせないわよ。あたくしは遠い距離のほうが有利なの。きさまなぞ、近づけなければなにもできないわ」
セイはからだの前で刀をぐっと身構え、ハマリエルとの距離をはかった。
学校のプールほどの距離感がある。最低でも25メートルは離れてしまったとみるべきだろうか? 不意打ちをくらって思った以上に後退させられていることがわかっ
「そんなに離れちゃあ、届かないでしょ」
ハマリエルが薄ら笑いを浮かべながら、左手をもちあげてセイのほうへむけようとした。ジル・ド・レやラ・イールはハマリエルの背後に回り込んでいたが、満腔から放たれている異様な邪気にからだがすくんでいるのか、身動きできずにいる。
が、その左腕がぴたりととまった。
リアムだった。
瀕死のリアムがハマリエルの左腕を上から押さえつけていた。
「なぁに まだ死んでなかったの?」
「ああ、おまえさんのような、性悪女を置いてひとりで逝けるわけないだろ。道連れにするさ」
「道連れ? ふざけないでよね」
ハマリエルがリアムの腹を貫いている右腕を引き抜こうとした。が、リアムはその手をがっちりと抑え込んで離さなかった。
「ちょ、ちょっとぉ、離しなさいよ」
「そうはいかない」
リアムはさらに腕に力をこめる。
「セイ! やれ!」
リアムが叫んだ。
セイはくちびるをぐっと噛みしめた。
すでに余力など残っていないはずなのに……
セイは刀を横に寝かせると、その柄に力をこめた。
「は、セイ、近づけさせやしないわよ」
セイが刀を横におおきく振る。
うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
刀身が伸びる。
伸びる! 伸びる! 伸びる!
「このクソトラウマぁぁぁ、貴様を浄化してやるぅぅぅぅ」
ゆうに30メートルを超えるほどに伸びた刀身が、自分のほうへ迫ってくるのをみてハマリエルがうろたえた。
「ちょ、ちょっと……そんな」
必死でリアムのからだから腕を引き抜こうとあがく。
「この人間、離しなさい!」
「させねぇって言ってンだろ」
「ふざけないで!」
「ふざけるさ。命懸けでな」
「ちょ、待って!」
「遠慮すンな」
「一緒に逝こうぜ」
その瞬間、リアムの頭上ぎりぎりをすずやかな風が吹き抜けた。その風はハマリエルの首元にはぎらついた閃光となってすり抜けていった。
え?
という不思議そうな表情のまま、ハマリエルの頭が刎ね飛んでいた。
ハマリエルは自分の首がからだから切り離されたかも、なにがそうしたのかもわからなかったにちがいなかった。




