第78話 精いっぱいのへらず口
「ジル・ド・レ! ラ・イール!」
「セイ、ぼくは大丈夫です。それよりジャンヌを……」
「ああ、セイ殿、こんなのはかすり傷じゃ」
「は? おまえたちがあたくしの攻撃をふせいだわけじゃあるまい」
ハマリエルが苛立ちをあらわにした。
「そこの未来人の力で、ビームをはね返されただけだ……」
「だが、今度はそうはいかない。さきほどあたくしの身体を拘束して、危険な目にあわせてくれたお礼もせねばならないからね」
リアムは手を前につっぱったまま、口元をにやつかせた。
「ヤバいくらい焦ったろ。あともうすこし力がだせたら、セイがあんたの首、斬り落してたんだがねぇ」
精いっぱいのへらず口だったが、あきらかに弱々しかった。
「ああ、危なかったわ。こんなに追い詰められたのははじめて。だから……」
その瞬間、ハマリエルは弾丸のようなスピードで、リアムのふところに飛び込んでいた。
「きさまの命で落とし前をつけてもらうわ」
セイにはハマリエルのことばは、耳にはいってこなかった。カッと目を見開く。セイが血の気がひくのを感じた。
目の前の光景が信じられなかった。
ハマリエルが突き出した右手から、華々しいビームが放たれたかと思うと、その腕はリアムのお腹のど真ん中を突き抜けていた。
「リアム!」
セイが叫ぶのと同時に、ジャンヌやジル・ド・レたちも一斉に声をあげていた。みな呆然とした表情だった。
「これでこいつは死んだわ」
「いい加減なことを言うな!」
セイはハマリエルのほうに刀の切っ先をむけながら叫んだ。
「いい加減?」
「ぼくらはこの世界では精神体だ。死ぬなんてこと……」
「死ぬわよ」
ハマリエルは残酷な笑みを浮かべながら言った。
「さっきも言ったわよね。この世界で死んだら、むこうの世界でも死ぬって。肉体的に死ぬんじゃないわ。精神をやられて廃人になるのよ。植物状態というンだったかしら」
「黙れ! そんなことあるわけ……」
「じゃあ、きさまのからだで試してみたらどうかしら!」
ハマリエルがリアムのからだを貫いたままの状態で、セイのほうへふりむくと、リアムの背中へ突き出た右手からビームを放ってきた。リアムのからだ越しに撃たれたビームはセイを的確にとらえる弾道だったが、セイはおおきく後方へジャンプしてそれをよけた。
ハマリエルが突き出した右腕にぶら下がるリアムのからだは、ちからなくボロ布のようにだらりと、垂れ下がったままでピクリともしなかった。
「リアムさん!」




