第68話 あいつの動きをとめてやる
目の前のハマリエルの姿が残像のように思えた。
それほどまでにハマリエルの動きは厄介だった。この世界で得られる人間離れした『力』を総動員して、ハマリエルを追いかけたが、追いきれてなかった。
速いうえに、変則な軌道を描き、ランダムな緩急によって翻弄された。
むしろハマリエルの指先から発射される、ビームのほうがまだ反応できた。暗闇のなかで光る瞬間を見極めやすかったし、まっすぐ飛んでくるので着弾点を予想できたからだ。
夜陰を光が切り裂く。
セイは刀を身構え、その前方に剣の盾を飛ばす。ビームが剣の盾を打ち砕く。セイは自分にむかってくるビームを、刀を一閃してはじき飛ばす。
が、次の瞬間には自分の後方から、ハマリエルのビームが放たれていた。
はやいっっ!
セイはからだを瞬時にひねって、後方からのビームをかわした。流れる髪の毛にビームが触れて、じゅっという音と共に毛がこげる臭いがした。
うごきを止めないと——
「セイ! そろそろ限界そうですね」
暗闇からハマリエルの声が響いた。方向は定まらなかったが、それなりの距離があるのがわかる。
「そうかい? ならもっと近づいてきたらどうなのさ」
「それは遠慮いたしますわ。あたくしの間合いではないですからね」
「ぼくの剣を怖れてるってことかな」
「まぁ、そうですね。あなたの剣はどこに潜んでいるかわかりませんからね。うかつに近づいて斬られるような、醜態はさらしたくないものです」
「でも遠くからじゃあ、ぼくは撃ち損じるよ。ましてや一本腕じゃあね」
「おまえのような弱い人間、片腕で十分ですわよ」
暗闇のなかでハマリエルの瞳がギラリと光るのがわかった。
腕を落とされたことで、相当に機嫌を損ねているらしいことだけは感じられた。
「おい、おふたりさん。あんたらだけで盛り上がってるなよ」
下からリアムが威勢のいい声とともに、中空へ跳躍してきた。
「あら、リアム。しっぽを巻いて逃げたかと思いましてよ」
「わるいね。ちっとばかり休憩していた。年寄りにゃあ、あんたのような若い女を相手するのはひと苦労でね」
そう言いながらリアムはセイのもとへ近づくと耳打ちをするようにささやいた。
「セイ、大丈夫か?」
「ええ。なんとか。でもこれ以上あいつのテリトリーで戦い続けるのは難しそうです」
セイは中空に浮かせた刀剣の峰を踏みつけている自分の足に目をやった。
「こいつを浮かせて、それに乗っかっていますが、さすがにくたびれました」
「で、どうすりゃいい?」
「ハマリエルを地上に呼び込んで、あの動きをとめたいです」
「わかった……」
リアムがセイにつよい視線をむけてきた。
「おれがあいつの動きをとめる」
「どうやって?」
「任せろ。だが少々時間が必要だ」
セイは手に持った日本刀の柄にぐっと力をこめてから言った。
「じゃあ、もうすこしだけ時間を稼ぎます」




