第67話 首を落とせ!
ハマリエルが怒りの表情をこちらにむけた。それでなくても恐ろしい顔が、血走った目、裂けた口元、むきだしの鋭い歯、のせいで、凄まじい形相になっている。
それでいい。
こっちに注目しろ、ハマリエル!
ハマリエルがわなわなと手を震えさせながら、ゆっくりとこちらに左手をむけてきた。
その瞬間、中空に浮いているハマリエルの真下の川面が揺れたかと思うと、水をはねあげてなにかが飛び出した。
セイだった。
セイは水中からロケットのように空中へ飛び出すと、ハマリエルに斬りかかった。
「首を落とせ!」
リアムが叫ぶと、ハマリエルは反射的にリアムへむけていた左手で、自分の首を守ろうとした。
それでいい!
セイは自分の前にさしだされたハマリエルの左腕を腕の根元から切り落とした。
ハマリエルの腕がロワール川へと落ちていく。
「リアムさん、お願いします!」
リアムは空気を操り、落ちていくハマリエルの腕を跳ね飛ばした。まるで見えない大砲で撃ちだされたように、ポーンと腕が岸にむかって飛んで行く。
そこにジャンヌ・ダルクたちがいた。
地面に落ちたハマリエルの腕に、ラ・イールが組みつくと、怒濤の勢いでル・バタールやジル・ド・レたちがそれに続く。
「セイ! 早く!」
ジャンヌが叫ぶ。
セイが空中で自分の刀を地面に突き立てるような仕草をする。
その瞬間、空中に潜ませていた数本の剣がミサイルのように、ハマリエルの腕にむかって飛び出すと、腕を串刺しにして地面に突き刺さった。
ハマリエルの腕はその衝撃にびくりと身を震わせたが、すぐにもがいて逃れようとした。そこへ追い討ちをかけるように、セイが何本もの剣をさらに腕に突き立てる。
あらがうようにハマリエルの腕は、ひとさし指を立てビームを発射した。
が、その方向はレ・トゥーレル砦、オルレアンとは反対側にある『オーギュスタン』の修道院の庭の土を荒っぽく削っただけだった。
地面に磔にされたハマリエルの左腕の攻撃は、封じられた。
よしっ!
リアムは心のなかで快哉をあげると、ハマリエルのほうを仰ぎ見た。
ハマリエルはいなかった。
な!
月明かりのなか、川面に影がゆらいだ。
セイが水面すれすれの場所でハマリエルと戦っていた。
水面を駆けながら、ハマリエルのビームの攻撃をかわすと、セイは空中にランダムに浮かせていた剣を、ハマリエルにむけて飛ばした。ハマリエルがそれをビームで破壊する。そのあいだにセイがハマリエルの懐へ飛び込むような跳躍。
が、ハマリエルはすぐさまビームをセイへ向ける。
セイは空中に浮かせている剣に足をかけてジャンプ。ビームをぎりぎりの間隔で避けると、ハマリエルの首元にむけて刀をふるう。
その切っ先がハマリエルの首をとらえる、と思った瞬間、その姿が消えた。




