第66話 ハマリエル変化
いつになったら終わるのだろうか——
リアム・ミィシェーレはハマリエルからの攻撃を空気の壁で受けとめながら、ぼんやりとそう思った。
ハマリエルはすでに少女のあどけない姿を捨て、その地位と能力にふさわしい姿に変化し終えていた。
毒々しいまでの色彩に彩られた皮膚、どこの時代のどの民族ともつかないけばけばしい衣装。顔かたちは人間同等でありながら、爬虫類にも、鳥類にも見え、そしてどれにもカテゴライズできなかった。端正な作りであるのはわかったが、まとわりつく邪気のせいなのか、どこかいびつで、どんなに好意的にみても、不気味さだけしか読み取れなかった。
どの角度からみてもモンスターでしかなかったが、人間サイズの範疇から外れないおおきさを考えると、おそろしいまでに濃縮された邪悪、というイメージがこころに迫る。
ハマリエルの指先からレーザービームが発射された。右、左とリズミカルに連弾される。
ビームはリアムが作りだした空気の壁を貫き、レ・トゥーレル砦の壁の一部を破壊する。
くっ! はね返すどころか、弾道をそらすのも厳しくなってきやがった。
「そろそろ限界かしらね」
ハマリエルがにたりと笑った。声は変化前の女口調のままのしゃべり方だったが、見た目同様に変化し、雑音めいたものになっていたため不快でしかなかった。
「なぁに言ってやがる。こっちは元気万々だよ。本領発揮はこれからだよ」
「はん、ただの時間稼ぎでしょうに」
「時間稼ぎぃ? なに言ってンだ」
「あの少年の回復を待ってるんじゃなくって?」
「セイのことか?」
「セイ? へえ、そういう名前なのですね」
「あいつの名前はユメミ・セイ。覚えとけ。てめえを倒すヤツの名前だ」
「あら、わたくし、名前には興味ないの。とくに人間の名前はね」
「ほう、趣味が合うじゃない。おれも名前には興味ないんだ」
リアムはこれ以上ないほどの薄ら笑いを浮かべて言った。
「とくに悪魔の名前にはね」
その瞬間、ハマリエルの指先からビームが放たれた。が、攻撃を予測し何層にも重ねておいた空気の壁がはね返した。
「ほら、本領発揮しただろ?」
リアムは余裕の表情を装ってみせた。
「にしてもいくら悪魔だからって、二重規範ってぇのはいただけねぇじゃないのさ」
「おまえのようなただの人間が、黄道十二宮に属するわたくしと同格なわけないでしょうが!」
「まぁ、そうだね。あんたがどんなに上位の悪魔だろうと、しょせん人間の想像の産物だ。同格ーーっか、アメーバー以下なんだから、人間様と比べること自体が失礼ってモンだ」




