第61話 メスを守っていてください
「セイ殿、心配するな。メスは無事じゃ」
「ああ、わたくしたちがしっかりと守っている」
ラ・イールとル・バタールが声をはずませると、ブーサック元帥ジャン・ド・ブロスが不承不承という形で続いた。
「セイ殿、そなたにとって大事な御仁なのだろう。わしの命に代えても守れ、とラ・ピュセルからの命令でな」
そのことばにベルトラン・ド・ブーランジイが頭をさげた。
「元帥、ありがたきお言葉です。メスはわたしにとっても弟分のような者。全力で守っていただき……」
ブーランジイはことばを詰まらせた。
「みんな、ありがとう。でももうすこしメスを守っていてもらえますか?」
「ああ、どこまでやれるかわからんがね」
ル・バタールがすこし自嘲気味で答えた。セイは彼がネガティブ思考にとらわれはじめた、と感じた。
「メスが無事なら、ぼくはまだ戦えます」
手に力を漲らせながら、セイは言った。
「あのトラ……ハマリエルを倒してみせます」
「ですが、神の子セイ。リアム様も止められなかったのですよ」
ジャンヌは悲しみを顔いっぱいに浮かべたまま言った。
その悲しみが、今の一瞬で残ったフランス兵の多くを失ったことなのか、自分の盾になって死んだ愛馬のことなのかわからなかったが、セイにはジャンヌの沈む気持ちを鼓舞する必要があると感じた。
ジャンヌの狂ったまでの盲信と、危なっかしい正義こそが、オルレアン解放まで導いた原動力なのだ。こころが沈んだままでいいわけがない。
セイはわざとらしく力こぶを作る真似をしてみせた。
「ジャンヌ。ぼくは回復した。ほら、これを見て! だから大丈夫……」
「絶対に勝ってみせる!」
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自分の力では太刀打ちできない——
リアムはゾッとするような現実を受け入れるしかなかった。
新規にたちあげられる組織、『サイコ・ダイバーズ』の基準では、自分は最上位のSS級相当であると認定されていた。
だが、それだけの手練れの者が、まったく手が出せない敵が存在するとしたら、そんな階級になんの意味があるというのだろう?
「リアムさん!」
声のほうへ目を向けると、セイが人間離れしたスピードでこちらへ向ってきていた。
傷を修復できたようだな。
リアムは胸をなでおろした。
そんな余裕などあるはずもなかったが現状、最悪の事態は避けられているだけでも儲けものだと思えた。
「あら、少年。まだ死んでなかったのね」
ハマリエルが目をほそめた。




