第60話 降り注ぐ光の矢
夜空を煌々と照らしている光の矢を、フランス軍の兵士たちは呆然として見ていた。
ジャンヌ・ダルク、ル・バタール、ラ・イール、ジル・ド・レ、ブーサック元帥……
そのなかにはジャン・ド・メスもいた。
セイはすぐさま天空から剣を呼びだした。日本刀ではなく堅牢で刃渡りがおおきいものを頭のなかで想像した。剣で盾を作らねばならないのだ。切れ味や種類はどうでもよかった。
黒雲のなかからすごい勢いで剣が飛び出してくる。何層も重なったまま、兵士たちの上を通り抜け、ジャンヌと自分の真上に集中させる。
まだだ、まだ足りないっっっっ!
セイが歯噛みした瞬間、上空でガツンとなにかがぶつかる音がして、パキーンと硬いものが折れる音がした。
光の矢が光速を思わせるスピードで地面にむかって降り注いでいた。
セイの上空をふさいでいた刃の盾がくだけ穴が開く。穴からレーザービームが飛び込んでくる。セイは自分の上にさらに刀を展開し、そのレーザーをふせいだ。
刀を砕いたせいで勢いが削がれたレーザーは、その次の太刀にはね返された。
が、いたるところで、悲鳴があがっていた。
ロワール川岸辺に展開していた兵士、レ・トゥーレル砦でリアムに救われた兵士たちが、光の矢に刺し貫かれていた。
「ジャンヌ!」
セイはうしろを振り向くと、ジャンヌが倒れているであろう場所に声をかけた。
「わたしは大丈夫です」
ジャンヌの声が聞こえた。
セイはよろよろと立ち上がると、ジャンヌの元へむかった。
ジャンヌは倒れた愛馬の背後にからだをピタリとつけて座っていた。セイが精いっぱいの力でかばったにもかかわらず、受けた衝撃が甲冑の凹みとして残っていた。
「傷は?」
「ご心配なく。神のご加護……いえ、さきほどセイが盾になってくれたおかげで、かるい矢傷ていどで済みました。今もわたしの愛馬が盾になってくれて……」
「ぼくもジャンヌのそばにいて、この馬に助けられた」
ジル・ド・レが馬を見おろしながら言った。
「メスは? ジャン・ド・メスはどこに?」
セイはあわてて訊いた。
「あそこに」
ジャンヌが悲しみを押しこらえて、すこし先を指さした。
見ると、メスはラ・イールやル・バタールたちとからだを寄せ合い、手にもった盾や剣を360度円形に構えた密集陣形をとっていた。
古代ローマの密集陣形『ファランクス』を彷彿とさせる、極力死角をなくそうとする形だったが、まんなかにかくまわれたメスは、まるで貴族たちに守られているように見えた。




