第59話 ハマリエル、もう一発撃ってみろよ
ハマリエルは今まで戦った悪魔とはちがった。
ほかの悪魔のようにこちらが畏怖するような悪魔然とした姿も、威嚇するような異形な姿もせず、ただの少女の姿のまま、リアムの技や力を受け流していた。
自分の能力はたいしたものではないのではないか——
何度もその思いがこみあげる。
『んな、はずねぇ』
この世界では自然の属性にかかわる能力を手に入れたものが、絶対的に有利だと言われている。
自分は「風」「土」「水」「火」の四大エレメントの、『風』属性の派生形を持っていのだ。
リアムは撃たれた足に精神を集中すると、ぐっと力をかけて立ち上がった。
「ハマリエル、もう一発撃ってみろよ。今度は受けとめてやるからよ」
ハマリエルが困ったように眉根をよせて笑った。おそろしいほど邪気のない笑顔。からだの周りを、ヘドがでそうなほどの邪気に覆われているにもかかわらず、その笑顔に一瞬こころを許しそうになる。
『あら、一発なんて無粋なことはしませんわ。今のあいだにいっぱい光の矢を作ってましたから、全部受けとめてほしいですわ』
ハマリエルはくすりと笑って、上空をみあげた。
いつのまにか陽は落ち満天の夜空が広がっていた。が、まだ夕闇が近づいているくらいにしか思っていなかった。
空いっぱいに光の矢が浮かんでいた。
ハマリエルの指から撃ちだされるレーザービームが、矢のようになってびっしりと空を埋め尽くしていた。地上にむけて今か今かと、攻撃の瞬間を待っているようだった。
「わたくしね、まだ能力に制限があるの。魔王様が蘇ってないせいでね」
ハマリエルは両手を目の前に掲げ、両方のひとさし指を立ててみせた。
「ビーム攻撃はひとさし指からしか出せませんの。しかも長いあいだ出し続けられない。だから細切れに連続して出すしかないの」
「あ、あれは……」
「今、あなたが倒れかけた間に、急いで出したの。光線は出せさえすれば、自在に操ることは可能ですからね」
「そんな……今の間……5秒ほどだったはずだ」
「だからまだ長時間だし続けられなくも、欠点だとは思ってない」
ハマリエルが邪悪な笑みを浮かべた。
「あなたをこの任務から解放してあげるわ」
こちらの骨まで凍りつきそうになるほどの、ゾッとする笑い。
「だって、ここにいる全員を排除すれば、あなたはわたしと戦う意味もなくなるでしょ」
リアムは空にむけて腕をつきあげた。
空気の層を……とびっきりぶ厚い空気の壁を……
このオルレアンの地を空気の壁で覆わなければ……
だが、リアムはわかっていた。
もしそれがうまくいったとしても、あの光の矢はふせげないことを……




