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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
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第57話 セイ……しっかり……して……

『セイ…… しっかり……して……』


 ふいに意識がくっきりと色を帯びた。

 あたりの音や声がはっきりとした輪郭をもって、一斉に耳に押し寄せてくる。

「セイ、しっかりしてください!」


 自分のからだを揺らしていたのは、ジル・ド・レだった。


「ああ、ジル様。ジャンヌは……ジャンヌはどうなりました?」

「セイ、心配しないで。きみがかばってくれたおかげで、軽傷ですんだ。大丈夫だ」


 セイははぁーっとおおきく息を吐きだした。

 安堵の思いが込み上げてきた。が、同時に不安と恐怖に襲われた。


「ジル様、あいつは? ハマリエルは?」


 ジル・ド・レはセイの背中を軽く叩きながら「アランソン公……」と言いかけて、言い直した。


「いや、きみの世界からの仲間、リアムか。彼が戦っている」

「リアムが!」


 セイはジル・ド・レが指し示すほうへ目をむけた。

 すっかりと暗くなったロワール川の水上で、なにかが戦っているのがみえた。オルレアンの街からの灯影(とうえい)に照らしだされる水柱。

 と、突然レ・トゥーレル砦のレンガが崩れ落ちた。

 砦の外壁になにかが叩きつけられたのがわかった。


 舞いあがった(ほこり)のなかから、ガラガラと音をたてながら姿を現わす。


 ハマリエルだった。

 ハマリエルは中空に体躯(たいく)を浮かべながら、からだについた砦のレンガ屑をはたきながら言った。


「空気の力…… 恵まれた力をお持ちのようね」


 ハマリエルの目線の先にリアムがいた。

「リアムさんっ!」

 リアムは一瞬だけセイのほうへ目を走らせたが、すぐにハマリエルのほうへ向き直った。その一瞬の視線だけでセイには、こちらにかまうなというサインを読み取った。


 ダメージ修復に集中しろ——


 リアムの視線はそう言っていた。

 

 まだぼんやりとしている意識をはっきりさせようと、セイは頭を横にかるくふると、目をつぶって自分がおった傷に意識を集中した。

 精神の糸で傷口を縫う、というイメージでは間に合わないと直感した。セイは精神の接着剤で傷口をおおって、パッチをあててふさぐイメージを思い描いた。

 精神力のすべてがその部位に注がれていく。が、簡単ではなかった、

 傷は想像以上に深く、おおきかった。


『くそぅ、ふさがりきるイメージがつかめない』


 セイの耳にはリアムとハマリエルが死闘を繰り広げている音が、爆発音や破壊音、人々の声となって聞こえてきていたが、今は自分のことだけで精いっぱいだった。


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