第56話 ジャンヌが死んでしまったらお終いだ
「墜落……」
ジャンヌはドラゴンが墜落した岸辺のほうへ目を泳がせた。あたりは暗くなって見えにくかったが、ジャンヌの顔は心なしか蒼ざめて見えた。
「心配しないで。彼はすごい能力者だから、無事だと思うよ」
それは一瞬のまたたきだった。
セイのからだは脊髄反射的に動いていた。いっさいの躊躇もなく、ジャンヌ・ダルクの前に身をていしていた。
だれもがなにが起きたかわからずにいた。
薄暗い夕闇を切り裂いて、空からさした一筋の光線がセイのからだを貫いた。そしてその背後にいたジャンヌの甲冑を破壊していた。
セイは胸のまんなかを抑えたままゆっくり倒れた。と同時に背後でガチャンという甲冑が地面にぶつかる音を聞いた。
「ジャンヌ!」
セイはうしろを振り向きながら叫んだが、咽喉の奥から湧きあがってきた血へどに、気道をふさがれ声にならなかった。
くそぉぉぉ! ジャンヌが死んでしまったら、これでお終いじゃないかぁぁぁぁ
警戒していたにもかかわらず、それを抑止できなかったことが、セイは悔しかった。
ぐっと歯を食いしばる。
すこしでも気をゆるめると、気をうしないそうになる。
精神を集中させろ!
はやく回復しないと!
ぼくは彼女を守れない!
セイはその場に膝をついたまま、自分の胸の穴に精神を集中させた。
やられたのは心臓か?
それとも肺だけなのか?
目がかすむ。
セイは自分が今までのダイブで、もっとも危機に陥っていることを自覚していた。
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セイはかろうじて意識を保っていた。
光線によって貫かれた箇所を修復するのに精神集中すると、失血や痛みなどのダメージに抗しきれなくなり、意識の糸が切れそうになる。
セイのからだは跪いたまま、前のめりに倒れ、すでに頭まで地面にこすりつけていた。
ここで現世に戻るわけにはいかないっ!
頭のまわりでワンワンとした音や声が聞こえる。だれがなにを言っているか、まったくわからない。残響音だけがハウリングしているようにしか聞こえない。
ときおり、ジャンヌ、アランソンと言っているような声が響いたが、ぼーうっとしてそれが本当なのかもわかない。
……っかりして……
しっかり……
だれかの手が自分のからだをやさしく揺らす。
『セイ…… しっかり……して……』




