第55話 神の子セイ、大丈夫ですか?
逃げ切れなかった——?
上空からドラゴンごと墜落したリアムを見て驚愕した。
最後の瞬間にドラゴンにあいた穴からなにかが飛び出して、リアムに襲いかかったせいで間に合わなかったのだ。
セイは空いている左手を自分の足元にむけた。足元に黒い暗雲があらわれて、そのなかから何本もの日本刀がせり出してくる。
イケっ!
空中に現出した日本刀が峰を上にして、等間隔に並んでいく。そしてその刀は一本づつが階段状に段を作って下にむけて延びている。
セイはぶらさがっている刀を投げ捨てると、一番近くにある日本刀の峰の上に飛び降りた。そして刀の階段を下へとむかって降りていった。
まだ深刻なダメージを完全に克服できてなかったが、リアムの状況に気がはやって仕方がなかった。駆けたくなる衝動を必死で抑えた。
焦るな。狙われるぞ。
セイは上方からの攻撃の可能性に気を配り続けながら、刀の階段を降りていく。なんとか無事に降りていき、地面に降りたつと、そこにジャンヌ・ダルクとラ・イール、ル・バタール、ジル・ド・レたちが待ち受けていた。
「神の子セイ、大丈夫ですか?」
ジャンヌが心配そうに尋ねた。
「ああ……いまのところ……ね」
セイは腹と胸に空いた服の穴に目をむけながら言った。いまだにからだに穴があいたままで血が噴き出していたが、痛みもなくなり、脱力も収まってきた。
なんとか修復できているようだった。
だが、ジャンヌは穴のまわりにこびりついた、おびただしいまでの血の滲んだ痕に気づいて目を見開いた。
「ああ……そんな。セイ、大怪我をされているではありませんか」
「大丈夫だよ、ジャンヌ。神の力で治癒した。もう心配はない」
「セイよ、おまえさんがドラゴンを倒したのかね」
ラ・イールが我慢できないという口調で訊いてきた。
「いいえ、トラウ…… いえ、タルボットが自分で」
「タルボットが? 対峙していたときは、人間だったはずだが……」
「ハマリエルと名乗る化物にからだを乗っ取られていたようです。あいつがすべての黒幕です」
「ハマリエル…… ついぞ聞いたことのない名前だな」
ル・バタールが首を傾げると、ジル・ド・レも相槌をうった。
「そうですね。ぼくもはじめて聞きました」
「どうやらかなり上位の相手らしいです。リアムが怖れてました」
「ああ、アランソン公に憑依しておった、セイの仲間じゃな」
ラ・イールのことばに、ジャンヌが続いた。
「セイ、美しき公爵…… いえ、アランソン公はどこへ行かれたのでしょうか?」
「ジャンヌ。彼は……ドラゴンと一緒に墜落した……」




