第48話 黄道十二宮に属する者
ハマリエルだとぉ——
リアムはカッと目を見開いた。セイに自分の動揺を知られてはならない、という思いだったが、驚愕を押しとどめることができなかった。
「セイ! 精神を集中しろ。腕の一本や二本、この世界ではすぐに修復できる!」
リアムは自分の狼狽をかき消すように、力強く叫んだ。
「おれたちは精神体だ。その腕はふいうちで脳震盪を起こしたようなモンだ。心配ないっ!」
「や、やってみます!」
セイはつとめて冷静を装って、精神を集中しようとこころみていた。リアムはハマリエルの追撃に備えて、自分たちの目の前の空間に、空気の壁を展開させた。
「そうですか。あなたの能力はそれですか」
ハマリエルが睨め付けるような視線をくれた。
「道理でドラゴンが叩き落とされたわけですね。ですが……」
「たいした力ではないですね!」
ハマリエルの指先からビームが放たれた。リアム直撃という光跡を描いたが、リアムの目の前で角度がクッと曲がった。そのままドラゴンの羽根の端のほうを射ぬく。
ギャアアアアァン
ドラゴンが悲鳴のような咆哮をあげた。一瞬、からだがゆらぐ。
「ほう。はね返せないまでも、曲げるくらいの能力はあるのですね。たいしたものです」
「ああ。おれはこれでも能力が高いほうでね」
「まぁ、そうかもしれませんね。ですがわが輩の敵ではないですよ」
「それはどうかな…… やってみねぇとわからないだろ」
「リアムさん、お待たせしました。腕、修復しました」
セイが声をはずませた。
リアムはちらりとセイのほうをみると、復活した左手の指先の動きを確認しているところだった。
たいしたものだ……
からだの一部が吹き飛ぶような経験ははじめてで、相当なショックを受けているはずだろうに、きわめて平静を装おうとしている。
「セイ、大丈夫か」
「はい。はじめてで驚きましたけど、気力でなんとかなるってわかったから……」
「ああ。メンタルがタフで助かる。だが、精神力は無尽蔵じゃない。気をつけてくれ」
「死ぬ……んですか?」
セイがハマリエルとリアムとの間に目線を行き来させながら尋ねた。まるでどちらからも答えを聞きだそうとしているようにみえる。
「い、いや、死なない。だが……」
「死にますよ」
ハマリエルが言った。ただ呟いただけなのに、臓腑をえぐるほどの説得力をもっていた。
リアムはハマリエルを睨みつけた。
そのとき、ハマリエルの姿が徐々に変貌していることに気づいた。猛将であるジョン・タルボットの筋肉質なからだつきの名残は消え、まるで女性のようなたおやかさが色濃くでていた。顔立ちも女性としか思えない細面のものに変貌して、まるで女神を感じさせるオーラがあふれ出ていた。
だが、その目は氷のように冷たく、その表情に慈悲のかけらなど一片もなかった。
「さあ、死に行く時間ですわ」




