第44話 セイ、グラスデール戦
ドスン、ドスン!
やや鈍い音。数本の槍がグラスデールの甲冑をとらえていた。
槍の剣先はグラスデールの腹や胸を的確に突き刺していたが、厚い甲冑はそれをものともしていなかった。
バカな。
甲冑ごときが貫けないだって——
「はは、残念だったな、小僧。そんな柔な防御力ではないのだよ」
「グラスデール。死んでからのほうがおしゃべりだな」
セイはそう言い返しながらグラスデールの背後から足元へ滑り込み、力いっぱい膝に剣を叩き込んだ。
ガコン!
斬るというより、叩きつけるという攻撃。
これで倒れるはずだ、とセイは確信していた。
だがグラスデールは膝をおるどころか、微動程度しかしなかった。
まずい——
からだを沈み込ませたセイの頭上から、グラスデールの剣が振り降ろされてくる。
その間合いにふっと刀の束が現われ、剣筋をさえぎる。
ガキン、ガキン、ガキン!
金属を強引に打ち砕くけたたましい音。
セイが呼びだした刀の盾は、見るも無残にあっという間にへし折れた。
が、その一瞬の遅延でセイはグラスデールの剣をよけることができた。
あぶない……
セイはグラスデールから距離をとると、中空から日本刀を引き抜いた。
『そんな細い剣で勝てるとでも思ってるのか?』
「こんどは『叩き切る』んじゃなくて、こいつで『斬り落す』」
『うはははは……斬れるものかね』
グラスデールが口元をゆがめて高笑いした。
その瞬間だった。
ドーン!!!!
空気がうねったかと思うと、グラスデールのからだがその場でへしゃげた。堅牢きわまりなかったはずの甲冑が、まるでアルミ缶のようにくしゃっとへこんで、地面に押しつけられて潰れていた。
な、なにが……
「セイ。あんま手間取ってるから、おれがやっちまったぞ」
要塞のほうから声が聞こえた。
リアムが腕を地面に叩きつけたようなポーズをして立っていた。
「リアムさん」
「すまないなぁ。こっちがサクッと片づいちゃったもんでね。手持ち無沙汰でさ」
「あ、いえ。あ、ありがとうございます」
あまりにも圧倒的な力に、セイはことばがでなかった。
リアムはおおきな跳躍でポーンと要塞の上から降りてくると、潰れたグラスデールを覗き込んで、わざとらしく肩をすくめてみせた。
「ちょいと、力みすぎちゃったね」
「すごいですよ。リアムさん」
「だろう。だっておれってSS級……ま、どーでもいいか。ジャンヌを守れたんならな」
「はい」
そのときふいに背中からセイは抱きつかれた。




