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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
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第47話 スポルス、ネロはどこに?

 スポルスの手をひいてゲートから、観客席に走りでたセイは競技場内のいたるところで斬りあいがはじまっていることに驚いた。観客たちが我先に逃げようとしているので、何かあったとは思っていたが、こんな事態は想定していなかった。

 なぜ兵士たちが戦っている。

「反乱がおきたのですね」

 スポルスがセイのうしろから、その解答をとても冷静な顔で口にした。

「わかりません。でもスポルスがそう思うのならおそらく……」

「誰の仕業なのでしょうか?」

「それをボクも知りたい。だけど早くしないと、その兵士たちにネロが討たれる」

「ネロが……?」

 セイはスポルスの言い方に、すこし不安になった。唾棄(だき)するほどの嫌悪していたはずなのに、今ここではわずかばかりだが憐憫(れんびん)の情を(あらわ)にしている。

 また直前でおもいとどまりはしないだろうか。

 その時、すぐうしろで呻くような声が聞こえてきて、セイはふりむいた。

 ペテロだった。ペテロが目から大粒の涙を流し、口元をわななかせがら正面の競技場内のほうに手を伸ばしていた。

 そこにはおびただしい死体が転がっていた。どこに視点を合わせていいのかわからないほど四方に飛び散った猛獣の死骸。

 セイはそれがマリアの仕業だとすぐにわかった。この時代の兵器や武器でここまで死体を容赦なく損壊できるはずはない。だが、それと同時にマリアが人々を救えなかったこともわかった。猛獣の死骸の近くには、幾体もの遺体が転がっていた。

「おぉぉぉぉ……。私はまにあわなかった。主より救いを託されながら、果たすことができなかった」

 ペテロは顔を両手で覆ったままその場に(ひざまず)き、嘆きのことばを訥々(とつとつ)と語った。

「ペテロさま」

 スポルスがペテロを気づかいその背中に手を回した。そうやって寄り添ってなければ、ペテロは悲嘆にくれてそのまま命をうしないそうな気がした。

 その時、はるかむこうから大声でわめくような声が聞こえた。

 広い競技場をはさむようにしたちょうど真正面側に、皇帝用の観覧バルコニーがあった

 ネロだった。

 遙かむこう側からこちらを指さしながら、なにか怒鳴っていた。

「ネロだ」

 セイが背後のスポルスに声をかけると「えぇ、見えています」とだけ答えてきた。

 だが、その声には緊張の中にも、不退転の覚悟が感じとれた。

 キリスト教徒たちの無惨な姿に決意をあらたにしたのかもしれない。今、このタイミングを見逃すような愚はおかしたくなかった。

「スポルス、行くよ!」

「セイ、私は行けません。ペテロ様をおいてはとても無理です」

「スポルス、わがままを言わないで。今この時が最大のチャンスなんだ」

「しかし、セイ……」

「行きなさい。スポルス。スポル=スサビナ」

 意外にもスポルスを後押ししたのはペテロだった。ペテロが体を支えるスポルスの腕をやさしく振りほどくと、スポルで背中を押すようにして言った。

「スポルス、私は残念ながら間に合わなかった。だがおまえはそうなってはならん」

 ペテロが顔をあげて、セイを見つめた。

「神の子、セイ。スポルスを頼む」

「ペテロ様はどうされるのです?」

 スポルスの問いに、ペテロは哀しみを(たた)えた目のまま、競技場の方に手をむけた。

「私には彼らの御魂を導く役目がのこっている」

 それを聞いてセイがスポルスに手をさしだした。

「スポルス、行こう」

 スポルスがおずおずと手をのせると、ぎゅっと握りしめた。その決意や気持ちを翻させてたまるかという、セイの無言の誓いだった。


「スポルス、ネロはどこに?」

「おそらく、黄金宮殿(ドムス・アウレア)に。あそこなら警護の兵も揃っています」


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