第37話 あなたがたでは歯が立ちません
「なにを言っている、セイ。さがっていろ」
ル・バタールがすこしとがめるような口調で言った。
「ああ、セイ殿。小姓が手に負える相手ではないぞ……」
ラ・イールもル・バタールに同調する。が、蘇ったイングランド兵が尋常ではないものであると、直感しているようだった。
「オレ様たちでも手に負えるかどうかもわからんがな」
グラスデールたちが水の上を滑るようにして、こちらへむかってくる。
セイは手のひらを頭上にむけた。するとそのすぐ上の空間にぽっかりと穴が開いて、なかに暗黒を思わせる空間が現われた。
『日本刀じゃあ、簡単にへし折られるかな』
ジャンヌが腰につけている剣にちらりと目をやると、手に力をこめた。空間のなかから大剣の柄がぬっと姿を現わした。
グラスデールたちは岸にたどりつくと、ゆっくりとこちらにむかって歩いてきた。
「みんな気をつけて!」
そう注意を促した瞬間、グラスデールの3人の部下たちが、あきらかに人間のものではないスピードで攻撃してきた。3人はル・バタール、ジル・ド・レ、ラ・イールをそれぞれ狙っていた。
が、まったく反応できなかった。
剣の達人ラ・イールでさえ、柄に手をかけるのが精いっぱいだった。
キン、キン、キン!!
セイは暗雲のなかから3本の剣を引き抜いて、瞬時に3人の前に繰り出していた。3人の黒い騎士たちが打ち下ろしたすべての剣を、セイの太刀が見事に阻んでいた。
「な、なにが起きてる……」
目の前に浮かんでいる剣をみて、ジル・ド・レが呟いた。
「た、助けられたのか……」
黒騎士の振り降ろした剣を受けとめている、空中の剣をみてル・バタールがくちびるをふるわせた。
「オレ様が剣を抜けなかっただとぉ」
剣を抜きながらラ・イールが言った。自分の不甲斐なさに、憤っているようで、機嫌がわるそうな口調だった。
「ラ・イール、ル・バタール、ジル・ド・レ、下がりなさい。あなたがたでは歯が立ちません」
ジャンヌ・ダルクが厳しい口調で言った。だがまだ驚きを隠しきれず、その目はおおきく見開いたままだった。
「これは神の子、セイの相手です」
「いや、しかし、ジャンヌ。セイはただの小姓ではないのかい」
ジル・ド・レがうしろに下がりながらくいさがる。
「はい。わたしの小姓です。ですが、『ただの』ではありません」
ジャンヌがセイに目配せしながら言った。
「未来からきたわたしの守護神です」
「ラ・イール、下がって!」
セイはそう叫ぶなり、ラ・イールに刃をむけている兵士にむかって飛びかかった。セイは空中に呼びだした空間から、日本刀を抜き出すと、兵士にむかって剣をふるった。




