第33話 イングランド軍の要衝レ・トゥーレル要塞
翌5月7日 早朝——
去年の10月以来、オルレアンを苦しめ続けたイングランド軍の要衝レ・トゥーレル要塞。ロワール川にかかる橋のたもとを塞ぐように建てられ、四方を建物で囲まれた小広場があり、その奥に石造りの頑丈ながそびえたっていた。イングランド軍の守備にも死角もなく、簡単には攻め落とせそうにない場所である。
オルレアンの町からは昨晩のうちにロワール川を渡河し、オーギュスタン要塞へ食料が運び込まれていた。市民たちは王太子軍の首脳たちの決定よりも、2つの要塞を立て続けに陥落させたジャンヌ・ダルクを支持していた。自分たちは戦うことはないが、協力はおしまなかった。もしかしたら市民はなんとなく勝利を感じ取っていたのかもしれない、
「突撃!」
三角旗がふられ、ジャンヌ・ダルクはレ・トゥーレル要塞に攻撃をしかけた。
要塞へ向かって一気に突撃する兵士たち。われさきとはしごを城壁にかけてよじ登ろうとする、だが、雨のように降り注いでくる弓矢に、ひとりまたひとりと倒れていく。
攻撃開始の報告を受けてル・バタールや王太子軍の将校たちも、腰をあげざるを得なくなった。援軍が船で渡河してきて、ジャンヌの軍に加わる。
そしてジャンヌの再三にわたる要請で、要塞を孤立する作戦がとられた。
櫓を支えている橋孤のひとつを切り崩させせると、満載した粗朶の束に火をつけた艀を流して、橋を燃やしたりした。
すでに日は真上にあがり、昼間になっていたが、まったく戦いの先は見えない状況だった。
「進めぇぇ! ひるまないで。神がついています。勝利はわがフランスのものです!」
三角旗を振りながらジャンヌが兵士を鼓舞する。
セイはジャン・ド・メスとともにジャンヌの警護にあたっていた。ジャンヌもすでに数時間、旗を振り続けている。おそろしいほどの体力だった。
兵士たちはみなどこかしら傷ついていたものの、彼女の声援に応えようと、ふたたび立ち上がって戦場へ飛び込んでいく。
「無駄だ。無駄だ!」
要塞の上から聞き覚えのあるダミ声が聞こえてきた。
セイが上をみあげると、レ・トゥーレル要の指揮官、グラスデールが下を睥睨していた。
グラスデールは頭のてっぺんからつま先までフル装備の甲冑をきていた。
「クラシダ!」
ジャンヌが叫んだ。
「この淫売め、なにを勝手な呼び方を。我が名はギョーム・グラスデール。このレ・トゥーレル要塞の隊長だ」
「クラシダ、降伏しなさい」
「だから、我が名はグラスデールだ! 降伏なんぞするわけがあるまい。まだおまえたちのだれもここまで登ってこれてねぇのだぞ」




