第31話 ジャンヌ快進撃
次の勝利はジャンヌの身勝手さから呼び込まれた。
ジャンヌはサン=ルー砦の勝利の勢いそのままに、次の砦を攻めようとした。
が、オルレアン要塞司令官ラウル・ドゥ・ゴークールが城門を固め、通行を禁じていたた。
「開けなさい。ラウル!」
「できません。ジャンヌ殿、当分のあいだ攻撃をしないと、会議で決定されたのです」
「これほどまでに士気が高揚しているのです。兵も市民も共に出撃して、次の砦に攻撃をしかければ、次なる勝利を手中にできるのです」
「無理を言わんでもらいたい。これは貴族や指揮官の総意なのです」
ジャンヌの大げんかはしばらく続いたが、埒が明かないとばかりに単独行動にうってでた。ラ・イール、ジル・ド・レほか精鋭たちを集めると、ロワール川の南にあるサン・ジャン・ル・ブラン砦に攻撃をしかけた。
サン・ジャン・ル・ブラン砦&オーギュスタン要塞
しかし、サン=ルー砦陥落におそれをなしたイングランド軍は、この砦をすでに放棄しており、おおきなオーギュスタン要塞に逃げ込んでいた。まんまと砦を手に入れたジャンヌはすぐさま、このオーギュスタン要塞を攻める。
だがロワール川の中洲ともいえるサン・テンヤン島に上陸したところで、イングランド軍がジャンヌ隊の後衛を急襲した。
ジャンヌとラ・イールは船で南岸に戻ると、先頭にたってイングランド軍に突撃した。手薄な兵力での戦いだったが、槍を手にして先陣を切るふたりを見て、フランス兵たちは勢いづいて、烈火のとごとくイングランド兵に襲いかかった。
ジャンヌが勝手に戦闘の火ぶたをきったのを知ったル・バタールは、まよわず増援部隊を送り、ジャンヌの指示に従い要塞に大砲を撃ち込んだ。
勢いをえたジャンヌ軍はとてつもない速さで、四方八方から砦を攻めたてた。
その砦にいたイングランド兵のほとんどは、あっと言う間に討取られるか、生け捕りにされた。命からがら難を逃れた者は、橋のたもとのレ・トゥーレル砦に退却した。
セイには拾いものの、薄氷を踏むような勝利にしか見えなかったが、ジャンヌの闘志が思いがけない勝利をもたらしたことで、フランス兵の士気はみるみるあがっていくのがわかった。
その夜、ジャンヌたちは奪取したオーギュスタン要塞で夜を明かした。
「オルレアンに戻らないんですか?」
セイがラ・イールにそう尋ねると、彼は困り果てたような顔をした。
「まぁ、戦場の習慣だからな。おおきな戦いで勝ったあと、どっちが勝ったかを見せつけるために、勝ったほうがその場に一晩留まるってぇのがな」
「でも……」
セイは砦を見回しながら続けた。
「勝ったようには見えませんけど……」




