第24話 ジャンヌ、怒りに身をふるわせる
「これはどういうことなのですか!」
ジャンヌ・ダルクは怒りに身をふるわせていた。
野営を重ねて三日目。オルレアンの町に近づいて、ロワール川沿いに陣を敷いているイングランド軍が視認できる位置まで隊は近づいていた。
「ジャンヌ、どうしたんだい?」
セイはジャンヌの馬に追いすがるにようにして訊いた。
「隊がオルレアンから遠ざかっているのです! いますぐにでもイングランド軍に仕掛けなければならないというのに!」
セイは軍がロワール川の南側をおおきく迂回していることに気づいていた。
「そういう作戦だと思ってた」
「なにを言うのです、神の子、セイ! わたしたちはイングランド軍など突破して、オルレアンに一刻もはやく入城しなければならないのです」
「いや、でも、ぼくらはオルレアンの人たちに届ける食料や飼料を運んでるんだよ。一直線に敵中突破は無謀……」
「わたしたちには神がついているのです。かならず勝てるのです」
ジャンヌがそう言いながら、苛立ちを募らせているのがわかった。うしろを振り向くと怒気をふくんだ声で叫んだ。
「ジャン・ド・ブロス! ラ・イール! これはどういうことなのか、ここにきて説明してください!」
名指しされた指揮官のブロスとラ・イールはすぐにやってきたが、悪びれる様子もなく言った。
「わるいな、ジャンヌ。わしらで秘密会議をひらいて進路をきめた。オルレアン軍の司令官、ジャン・ドルレアンからの要請でな」
「理由はそこの小僧が言ってたとおりだよ、ジャンヌ。オレ様たちが糧秣を運んでいるからだ。イングランド軍に襲われたら、オルレアン市民に食料を届けられないどころか、オレたちも兵糧をうしなって戦えなくなる」
「ジャンヌ。おまえさんは神の声が聞こえるかもしれんが、実戦の初歩も知らんのだ。まずはわしらたちにしたがってもらいたい」
ブロスが指揮官らしく、強い口調で言ったが、ジャンヌは聞く耳をもたなかった。
「進撃です。ブロス元帥。引いてはなりません」
そう言うなり、うしろの兵士たちにむかって叫んだ。
「みな、聞きなさい。ここからオルレアンの方へ戻って、イングランド軍と戦うのです。進撃です!」
「ジャンヌ、もう遅い。ここから引き返しては余計に時間がかかる」
ラ・イールがため息まじりに言った。




