第22話 きみがトラウマと呼んでいるモノは『悪魔』だ
だがこの世界に関与するものは、宗教観の違いをこえて知っておくべきではないのか?
きみがトラウマと呼んでいるモノは『悪魔』だ……と。
だが正体を知ってしまうことが果たして良いことなのだろうか?
知らずに戦っているからこそのパワーかもしれない。
「セイ。きみはなんのために、ひとの前世にダイブしているのかい?」
セイは驚いた顔をした。
「リムルさん、ずいぶんおかしなこと訊きますね。ぼくがこの世界にダイブして歴史を変えるのは、昏睡病の患者を救うためですよ」
「それだけ?」
「ほかになにかあるんですか?」
「あ、いや……」
屈託のない目でそう尋ねられて、リムルはことばを飲みこんだ。ここで宗教的な使命感などをもちだすことが、みっともない気がした。
「ただ……ぼくには昏睡病で眠り続けている妹がいるんです。すでに精神の核が閉じてしまってダイブができなくなっている」
セイの顔が悔しさに歪んだ。
「ぼくはその時、助けられるだけの力がなかった。だからいつか妹の魂を引き揚げる力を手に入れたいって思って……」
「どうやって?」
「わかりません。でもすこしでもおおくの昏睡病患者を助けることで、なにかヒントが得られるんじゃないかって期待してます」
「そうか……」
リムルはセイの告白を聞いて、自分たちの宗教的世界に巻込まないことを決断した。
カトリック教会の配下にある組織『ダイバーズ・オブ・ゴッド』
そして最近組織づくられた、宗教の垣根を越えて能力社が協力しあう組織——
『サイコ・ダイバーズ』
これらの組織に、人命救助のため純粋に戦っている少年を巻込んではならない——
「そうだねぇ。こいつの呼び名は宗教に関わることだから、きみにその定義を押しつけるのはよしとくさ。おれもあの化物のことを『トラウマ』と呼ぶことにするよ」
「なんか、すっきりしないですね」
「気にしない、気にしない。呼び名なんてどうだっていい話さ。それよりおれの正体、しばらく秘密にしておいてくれっかなぁ」
リムルはそう念押ししてから、さらに付け加えた。
「それから、おれはよほどの危機がない限りきみに加勢はしない。まがりなりにもイングランド軍への身代金を完納してない身だし、本当の姿を現わして戦えば、またいろいろ説明しなくちゃなんないからねぇ」
「ええ。わかりました……」
「憧れの『美しき公爵さま』の正体が、中年のオジサンだってわかったら、ジャンヌががっかりすると思いますしね」




