第20話 アランソン公の正体
その日の夜、セイはアランソン公に呼ばれて、ブロア城内に割り当てられた彼の部屋を訪ねた。もしかしたらジャンヌも居るのでは、という思いが頭をよぎったが、部屋にはアランソン公ひとりだけだった。
「セイ・ユメミ……だったね。呼びだててすまなかった」
「いえ、アランソン公。ここでは特にやることもありませんので。で、ぼくに何の用です?」
「ああ……そのことだが……」
アランソン公はセイを品定めするように見回してから言った。
「きみは未来からきた神の子、とジャンヌが言っていた」
「神の子というのはちがいますが、未来から来たのはたしかです」
「21世紀、ニッポン……」
「はい」
「セイ・ユメミ……きみはどこの機関の者だ」
セイはハッとした。
それは自分が未来からきたことを知っているどころか、確信していて、さらに素性を探ろうとしている質問だったからだ。
セイは自分の真横に手を突きだすと、中空に呼びだした空間からすばやく剣を引き抜いた。剥き身の日本刀を構える。
それをみてアランソン公があわてて、手でそれを制した。
「おい、おい、おい。その物騒なものをしまってくれよ。わたしはきみの味方だ」
「味方? 敵はかならずそう言って油断させるモンだけど?」
「待て、待て。わたしはきみとおなじだ」
そう言いながらアランソン公が自分の額に手をあてた。そのとたん、若々しいアランソン公の姿は消え、代わりに白髪がすこし混じった白人の中年男性の姿が現われた。
彼はグレイのスーツを着ていた。インナーにはタートルネックのシャツをあわせ、フォーマルになりすぎないよう着崩している。
セイは彼がこの時代の人間でないことにすぐに気づいた。
「あ、あなたは?」
「おれの名はリアム・ミィシェーレ。セイ、きみとおなじ未来人だ」
「未来人?」
「なんだよ、おなじ未来からきたきみが、そんなまぬけな顔するかぁ? おれは『アーミー・オブ・ゴッド』と呼ばれる組織のダイバーだ。どうやらおなじ患者にほぼ同時にダイブしちまったらしい」
「そんなこと、あるんですか?」
「ああ。おれの仕事はアクセスできる患者をパトロールして、ダイブできそうな魂に潜り込んで、サポートする役回りなんだ。セイ、きみの患者も昏睡病患者のネットワークに参加してるんだろ」
「いえ、ぼくは詳しいことは知りません。ただ、今回のダイブは新型のモデルを使ったはじめての本格ダイブなんです。それまではスタンドアローンの簡易式で……」
「それだ。まぁ、おれも詳しいこたぁわかんねぇけど、その新型っていうのがネットワーう型なんだよ。そうでなきゃ、おれがきみの患者にアクセスできるわけがない」




