第18話 傭兵の司令官ラ・イール
「生まれのいいおまえさんとちがって、ガスコン人のオレ様はこんな生き様で、ここまできてるからな。おまえさんはオレ様からみりゃ、別世界のお方なのさ。だから……」
ラ・イールのイメージミニチュア
ラ・イールの悪態がとまった。
ジャンヌがラ・イールの元にかけより、その足元にひざまずいたからだ。
「なんだ、おい!」
「ラ・イール様。足をわるくされているのに、この戦いに加わっていただけるとは、なんとフランス思いなのでしょうか」
そう声をかけながら、ジャンヌがラ・イールの脚に触れようと手を伸ばした。
「おい、おい、触らんでくれるか。メス臭いにおいが移っちまうだろうがぁ」
杖でジャンヌの手を制した。
「におい? まぁ、お鼻までわるくされたのでしょうか?」
ラ・イールの顔色が曇っていくのが、遠めにもわかった。
「敗戦続きで疲れているのかもしれませんね」
慈しみにあふれた口調だったが、ラ・イールを怒らせるには充分だった。
「なにぃ!」
すでに顔は真っ赤になり、いまにもジャンヌに危害を加えそうだった。
まずい——
セイは拳に力をみなぎらせた。横目でちらりとみると、メスも剣の柄に手をかけていた。
「ああ、よかった」
ジャンヌはラ・イールを仰ぎみながら微笑んだ。
「もうあなたは負けることはないのですから。どんなからだの不調もすぐによくなりますわ」
「負けない……だとぉ」
「はい。あなたは神に選ばれし軍隊の一員なのですから」
「まったく! 王太子様も、ここにいるヤツラも、どいつもこいつも小娘の戯れ言にだまされよって」
「わたしのことばではございません。わたしは『声』に導かれて、いまここにいるのです。神のご意志をお伝えしているだけです」
「は、フランスを救うのが神の意志っていうのなら、オレたちが戦わずともフランスは解放されるはずだ」
「【天は自ら助くる者を助く】でしょ。神様が勝利をお与えになるのは、神様の御名において、あなた達が戦うからなのです」
「ならば、おまえが神の使いだという証を見せてみろ」
「えぇ、オルレアンにいけばそこで証をお見せしましょう」
「くそったれ」
「ここは神の軍隊です! そんな汚らしいことばを使うのは許しません!」
「神の軍隊なものか! 荒くれ者だらけの統率のとれねぇ、くそったれの集まりだ」
「慎みなさい。そんな汚らしいことばを口にしてはなりません!」
ジャンヌはラ・イールを厳しい表情で睨みつけて言った。




