第14話 美しき公爵さま
ブローへ出立するジャンヌの軍は、セイが思ったよりも仰々しいものだった。
「ジャンヌ。ずいぶん大所帯だね」
セイは騎馬したジャンヌを見あげながら言った。
「神の子、セイ。これは吉兆です。王太子様がわたしを正式な司令官として、任命していただいた証ですので」
「そうなのだよ、セイ殿」
ジャン・ド・メスがジャンヌの馬の反対にいる男を目で指し示した。
「正式な司令官の証として、ジャン・ドーロンという副官を用意してくれている。それに小姓もセイ殿を含めて二名、さらに伝令使も二名と、貴族出身の司令官と同列の扱いをしてくれてるのだ」
「それだけではないぞ」
ブーランジイが馬上からからだを乗り出してきた。
「軍馬5頭、速歩馬7頭もお貸しいただいてもいる。それだけ王太子様のジャンヌへの期待がつよいということだ」
「わたしの兄、ピエールとジャンも加勢してくれることになりました。それに……」
ジャンヌはすこし顔を赤らめながら、自分の隣の馬に騎乗している青年に目をむけた。
「美しき公爵さま、いえ、アランソン公もご一緒していただけることになりました。とても心強い限りです」
セイはジャンヌにそんな態度をとらせる青年のほうを仰ぎ見た。
アランソン公(20歳)はジャンヌでなくてもおもわず見とれる、整った容姿をしていた。涼やかな目元やすっと通った鼻筋、口元は軍人らしくキリッと引き締まっていたが、貴族の高貴な血ゆえか、どこかしら気高さを感じ、なによりも華があった。
だが、セイはアランソン公の表情が気になった。
疲れている——?
「きみが神の子、セイか。よろしく頼むよ」
アランソン公は前に進み出ると、セイの手を握った。
「あ、はい…… ありがとうございます」
「そんなにかしこまらなくていい、セイ。アジャンクールの戦いで父が戦死したせいで、アランソン公とペルシュ伯を継いではいるが、わたしはまだ20歳、そなたとそれほど年が離れているわけではない」
「アランソン公は、ヴェルヌイユの戦いにも参加されたのですよ」
ジャンヌがうっとりとした視線をむけながら言った。
「ジャンヌ、そんなに期待する目でわたしを見ないでくれるかね。わたしはシャルルに参謀長を申し付けられたが、戦いに参加できない身なのだ」
「なぜです?」
「15歳で参戦したそのヴェルヌイユの戦いでイングランド軍の捕虜になってしまったのだ。5年も投獄され、つい先日、高額の身代金を支払って釈放されたばかりなのだ」
「だったらその仕返しをしようよ」
セイはアランソン公をたきつけたが、彼は悔しそうに目を伏せた。
「セイ、恥ずかしい話だが、じつはまだ身代金を全部支払い終えていないんだ。だからここでイングランド軍と敵対するわけにはいかないんだ」




