第11話 あの方は不思議な力をお持ちなのだ
「われわれはもうずいぶん長いあいだ足止めされている。時間はないとジャンヌはおっしゃるのに」
ベルトランが苛立ちを隠さずにそう言うと、メスはさらに怒りを含ませながら続けた。
「教会がジャンヌが神の使いであることを信じようとしないのだ。おかげでジャンヌは毎日のように審問に呼び出されて……」
「なんでそんな目に?」
「悪魔の使いかもしれんというのだ、神の子セイ。ばかばかしいったらない! ジャンヌがまごうことなく神の使いであることは、われわれが一番よく知っている」
「ああ、シノン城までの道のりをずっと付き添ってきたわれわれは、ジャンヌが神に導かれし、まことの聖女だと確信している」
メスの怒りにあてられたのか、ベルトランの口調も憤りを感じさせる。
「ベルトランさん、メスさん。どうしてそう確信するのかい?」
「あの方は不思議な力をお持ちなのだよ」
「ああ、われわれは何度か、その力をまのあたりにした」
「ヴォークリュールからシノンにむかうには、敵のブルゴーニュ公国領を横切らねばならない危険な行程だったが、不思議なことに、ひやりとする瞬間もなく通り抜けることができた」
「ああ……だが、一番おどろいたのは、王太子シャルル様との謁見の時だ。王太子様はジャンヌを試そうと、玉座に別の者を座らせ、粗末な服で群衆の陰に隠れておられた。われわれは玉座に座る方が王太子様であると思ったが、ジャンヌはその者には目もくれず、本物の王の前に進み出てひざまずかれたのだ」
「ああ、われわれはすっかり王太子様に欺かれたが、ジャンヌは顔を知らないはずの王太子様を見抜かれたのだ」
「だから王太子様も『戦士として国王の軍を率いて、イングランド軍を駆逐せよ』、という具体的で苛烈な声を聞いたジャンヌを信じられ、司令官に任命したのだ」
「イングランド軍を駆逐?」
「ああ、もうわれわれは百年近く前からイングランドと戦争を繰り返している。いっときはおさまっていたのだが、フランス国内のブルゴーニュ派とアルマニャック派の争いに乗じて攻め込まれ、国王になるべき王太子様はこんな辺鄙なところに追いやられてしまったのだ」
ベルトランが悔しさをにじませると、メスは憤慨しながら言った。
「しかも、イングランドでは『合併王国論』などというふざけたことを唱えているという」
「それって?」
「イングランド国王が両国の国王を名乗るというのだ。だが……このままだと、そうなるかもしれん……」
「それで、今からどこへ行くんです?」
セイはメスの部屋らしき場所に招き入れられるなり尋ねた。
「ブロアだ。そこでジャン・ド・ブザック指揮官とジル・ド・レ指揮官と合流し、護送部隊に加わり物資を運ぶときいている」
メスがセイに説明した。
「物資を? どこへ運ぶんです?」
「オルレアンだ」




