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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
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第10話 男として戦場へむかうジャンヌには必要のないもの

 セイはジャンヌに招かれるまま、ル・クードレ城の最上階にあるジャンヌの部屋にはいった。なにもない簡素な部屋で、いくら短期間の逗留とはいえ、女性らしさが微塵も感じられないのに驚いた。ジャンヌは部屋に入るなり、迷いもなくベッドにむかい、その下から女物の服をひっぱりだした。


 そしてそれを力まかせに引き破ると、その端切れで(すす)けたセイの顔をふきはじめた。

「ダルクさん。その服……」


「気にする必要はありません。神の子、セイ、わたしにはもう必要がないものです」

「必要ない?」


「これはドムレミ村でジャネットと呼ばれていた娘の服…… 男として戦場へむかうジャンヌにはもう必要ありませんわ」


 そう無邪気に言いながら、ジャンヌがセイの顔を丁寧にぬぐっていく。

 心から嬉しそうにしているジャンヌの無垢な表情に、セイは胸が高鳴った。


「それからセイ…… わたしのことは、ジャンヌと呼んでくださいな」


 ジャンヌは鼻がくっつきそうなほど顔を近づけてきて言った。

 どぎまぎする。

「ああ……了解」

 セイはぎこちなくことばを返すのが、精いっぱいだった。


「神はなぜあなたをここへお使わしになったのですか?」


 セイの顔の汚れを拭い終わると、ジャンヌが訊いた。

 純粋そのものの目でこちらに問いかけてくるジャンヌの表情に、セイは引き込まれそうになりながら答えた。


「もちろん、きみを救うために」


 ジャンヌがにっこり笑った。

「あなたの声、わたしに聞こえる神様の声にそっくり。美しく清らかで……まるでボワ・シャトーのせせらぎのよう……」

「あーー、そう……ですか?」

 セイが返答に困っていると、ジャンヌがおおきく瞳を見開いて、セイの瞳を覗き込んだ。


「先ほどの力…… セイ、あなたはほんとうに神の子なのですね」

「それだけの力がなければ、ここではあなたを救うことはできないからね」


「救う? 救うってどういうことです? わたしはもう充分救われているのに……」


「ジャンヌには神の御声が聞こえるのだ。われわれはその声に導かれてヴォークリュールからここまできた。われわれには……」

「ジャン! あなたはご自分のこと以外には、ずいぶん饒舌(じょうぜつ)になるのですね」


 得意満面に語りはじめたジャン・ド・メスをジャンヌがたしなめると、たちまちメスは口をつぐんだ。ベルトランがメスの肩をたたいて、無言で元気づける。


「さあ、神への祈りの時間です。ひとりにしてもらえますか?」


 ジャンヌの指はすでに五指を組んでいる。


「それが終わったら指揮官たちに挨拶に行きましょう」

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