第7話 あのかたは聖女となるべきだった...
「ヤニス・デュランドさんですね。あなたを迎えにきました」
「迎えに? きみはだれだ? 東洋人のようだが」
「ぼくはセイ・ユメミ。あなたは21世紀で昏睡病に罹患して、魂を前世に囚われているんです」
「こ、昏睡病! わたしは昏睡病なのか!」
「はい。ぼくはあなたの魂を引き揚げにきました……」
「このジャン・ド・メスさんの未練を教えてください」
ふっとデュランドの顔がメスの頭の上から消えた。と同時に我にかえったメスが、悲痛な表情で声を絞りだした。
「わたしはジャンヌ・ダルクを救えなかった。あのかたは『聖女』となるべきおひとであったはずなのに、それが果たせなかった。それがわたしの人生最大の心残りなのだ」
「ジャンヌ・ダルクだって!」
セイがあげた驚きの声に、ブーランジイが反応した。
「未来からきた少年よ。そなたはジャンヌを知っているのか? それに今ジャンが言っていた、ジャンヌを救えなかったというのはどういう意味なのだ」
「ぼくはそんなに詳しいわけじゃない。だけど未来の常識としてこれだけは知ってる」
「ジャンヌ・ダルクは100年戦争と呼ばれるイギリスとの戦いで、フランスを勝利に導きながら、魔女として火刑にふされて若くして命を落とした」
「魔女だとぉ!」
ジャン・ド・メスがセイに掴みかからんばかりの勢いで叫んだ。
「ジャンヌは聖女だ。魔女なんかであるものか! 彼女は数年も前から神の声を聞いて、片田舎のドンレミ村から使命にかられてここまで来たのだ」
「ああ、そうだとも。わたしたちふたりはジャンヌの聖なる言葉を信じて、ヴォークルールからこのシノンまで警護してきた。そして今まさにこれからジャンヌとともに、ろう城を続けるオルレアンを解放すべく、戦いに向うところなのだ」
「なにを騒いでいるのです。ベルトラン、ジャン」
奥の螺旋階段のほうから女性の声が聞こえた。
その声は森を抜ける風のように涼やかで、満天の星のように神々しく、そして猛獣の咆哮のような猛々しさに満ちていた。
ラ・ピュセルジャンヌ・ダルクだった。




