第4話 自分は『仲間』じゃないの?
『それが国際規格なんだよ』
スピーカーの声がダイブルームに響いた。
『ダイバーの数に関係なく、一度に5人ダイブできる環境でなければ認められないんだ』
「ずいぶん、無駄な規格ね」
『まぁ、今のところはね。だが将来、聖もひとりぼっちじゃなく、仲間たちと潜れるときがくるさ』
仲間——
かがりはそのことばがひっかかった。
自分は『仲間』じゃないの?
いつも聖の一番近くにいて、聖のダイブを誰よりも見守ってきたのに——?
でも過去に潜って、一緒に旅したわけでも、戦ったわけでも、トラウマと呼んでる怪物を倒したわけでもない。
うん、それはわかってる。
わかってる——
そして、いつかダイブした過去の世界で、聖が背中を預けられる能力者が現われることも……
そのとき、わたしはどんな顔をしていればいい?
どんな顔をして聖を送りだせばいい——?
どんな顔をして聖を迎えればいいの——?
「かがり、手伝ってくれるかい」
5つの区画の真ん中のエリアに寝そべった聖が、声をあげた。
「あ、うん、なにをすればいい?」
「頭のうしろのセンサーがゆるんでるようなんだ。端子部分を見てもらえるかな?」
かがりは急いで聖のうしろに回り込んだ。
聖は重々しそうなゴーグルを頭にひっかけたまま、酸素供給用のマスクについたレギュレーターをいじくっていた。
かがりは聖の頭部分に巻かれたヘッドバンドをすばやくチェックした。再背面にあるセンサーの端子がゆるんでいるのがわかった。
「一番うしろっかわの端子がゆるんでるわ」
「チェックしたんだけどね。たぶんゴーグルのバンドと干渉しちゃうみたいだね」
かがりは顔を上にむけると、父にむかって叫んだ。
「お父さん。ヘッドバンドの端子とゴーグルのバンドが干渉して、端子が外れやすくなってるって!」
「そうか! 今は大丈夫か?」
「ええ。修正したわ」
「わかった。設計を見直すことにするよ。今日はそれでいってくれ」
聖はなにも言わずに、父のほうにむけて親指をたててみせた。
「かがり、じゃあ、ダイブしてくるよ」
「わかった」
かがりは立ち上がりながら言った。
「今回は平穏な時代だったらいいね」
「うん。そうだね。まー、そんな時代、ほとんどないけどね」
「知ってる。言ってみただけよ」
『ナイト・キャップ始動!』
室内に父、輝雄の声が響きわたった。
聖がゴーグルを引き下げた。
「じゃあ、引き揚げにいってくる」
そう言うなり、口元に酸素マスクを装着し、そのままプールのなかに横たわった。
聖のかけているゴーグルに、火花のような光が走り、まるで万華鏡のような紋様とも、フラクタル紋様とも言えない、不思議な図形が目まぐるしいスピードで描画されていく。
プールからゆっくりと離れていくかがりが聖にかけることばは、たったひと言しかなかった。
「聖ちゃん、いってらっしゃい」




