第3話 世界標準のダイブ施設
「聖、それがよくわからんのだ。だが海外では複数のダイバーでバディを組んで潜るのが常識らしいし、場合によってはダイブ中に、感応したほかのダイバーが助っ人で飛び込んでいけるように、と専用の周波数を割り当てられているんだ」
「うへぇ、自分がダイブしているときに、知らないだれかと出くわすのは勘弁だけどなぁ」
聖は顔をしかめて見せた。
「どこの時代か、どの地域かわからないとこに放り込まれてンのに、誰か知らない人がダイブしてくるんでしょう? もう訳がわかんないよ」
「まぁ、そういうな。ここで実績を積み重ねれば、今度は国際機関への加入も視野にはいってくる。この分野で先行する欧米のルールには、従わざるをえんのだ」
「リョーカイ。とりあえず、この施設での初ダイブ、初サルベージといこうよ」
聖がいたずらっぽく笑った。
かがりはその表情にすこしドキリとした。
聖は子供の頃からときおりそんな顔をしてみせたが、もう高校生になるというのに相変わらず少年のような表情をする。
昔はなんとも思わなかったが、男の顔つきになってきて、そんな笑い方をされると、かがりはどう反応していいのかわからなくなる。
「かがり、着替え手伝ってくれるかい」
聖がくったくのない顔で言った。
まったく悪気もなく言ってるのがわかったが、かがりは顔を赤らめた。
「服脱いで、海パンいっちょうになるだけでしょ。なにを手伝うのよ!」
------------------------------------------------------------
結局、かがりは聖のダイブを手伝うことになった。
以前の研究室でのダイブと異なり、この研究所のダイブは想像以上に大がかりになっていて、ダイバーひとりだと結構な負担になることがわかったからだ。
ダイブ用の部屋は今までの環境から思えば、考えられないほど広くなっていた。
部屋の奥に十メートル四方ほどの広さのプールがあり、2メートルほどの間隔で仕切られていた。水深は一メートルもなかったが、周りはすべて透明なガラスで仕切られ、四方から全部見えるようになっている。
そして仕切られたエリアごとに、大仰なアームが十数基もついた大型の機器が設えられており、その一部の配線やら端末部分がプールの底に張り巡らされていた。
部屋の天井には多数のモニタ画面がぶら下がっており、ダイバーひとりひとりの各データをリアルタイムで計測して、モニタリングできるようになっていた。
そしてそれらの様子を一望できる上階の部分に、父が常駐するモニタルームがある。
かがりにはよくテレビドラマで見かける、責任者が上から監視している手術室のようにしか思えなかった。
かがりは上の階からこちらを見ている父にむかって叫んだ。
「なんで、五人分も用意されてるの?」




