第2話 精神潜入研究所 本格始動
かがりにとって父、輝雄の勤める大学のキャンパスは、自分の庭のようなものだった。
研究に没頭していた父はなにかにつけ、かがりを自分の研究室に連れてきた。おそらく遊園地や山や海などに遊びに行ったとは思うのだが、かがりの子供の頃のほとんどの思い出は、父の研究室の風景で占められている。
だが今回、専用施設が建設されたことは、あまりにもおおきな変化だった。
国家予算が『昏睡病』関連の研究におおきく割り当てられたことで、狭くて使い勝手のわるい研究室をとびだし、父は病院をも併設された最新鋭の施設の最高責任者となった。
「立派な建物ね」
かがりの口からついそんなことばが漏れた。
建設途中もずっと見ていたはずなのに、完成を祝した横断幕や花輪などで飾られているのをみて、あらためて嬉しさがこみあげてきたからだ。
「ああ、叔父さんの夢、叶ってよかったね」
「聖ちゃんのおかげよ」
「ぼくが? そんなことない……」
かがりは力強くかぶりを振った。
「ううん。謙遜しないで。お父さんが言ってたモン。昏睡病の治癒率で日本一の実績があったからこそ、これだけの予算がついたって」
「ぼくは冴をすくうための手がかりが欲しくて、昏睡病の人々の前世に潜ってただけさ。結果的にそのひとたちの魂を救ったにすぎない」
聖はダイブの話がでるたびに、いつもそういう言い方をする。だけどかがりにはなんとなく、そういう斜にかまえた言い方をするのかがわかっていた。偉大な力をもってしまった者として、過剰な使命感に駆られないよう自制しているのだ。使命感を意識しすぎると、それに押し潰されてしまうことが、なんとなくわかっているのだろう。
かがりと聖は光彩認証と指紋認証で、入り口を通り抜けると、父がいるであろうモニタ室へむかった。父は自分たちの姿をみるなり、おおげさに両手をひろげてみせた。いまにも抱きつきそうな勢いだった。
「かがり、聖、ついに研究所の本格稼働開始だ」
「叔父さん、おめでとう」
「お父さん、おめでとう」
「ああ、これも聖のおかげだ。兄貴にも聖の活躍を見せてやりたいよ」
「お父さん。伯父さんのことは……」
「いやあ、すまん、すまん。うれしくてつい……」
「叔父さん、気にしないでください。それよりもすでに患者さんがスタンバイしてるって聞いてるけど?」
「ああ、上層階にある『集中治療室』とワイヤレスで接続されている」
「離れた場所で? しかもワイヤレス?」
驚きのあまり、かがりの声はやや裏返っていた。
「ああ、そうだ。研究室時代のように、真横にあるベッドで横になってもらうということはなくなった」
「ええ、それはそうだけど…… ワイヤレス接続って……不安定にならないの?」
「ああ、心配するのも無理はない。でも国際規格でそうさだめられているんだ。やっとそれに準拠できたってとこだ」
「なぜ国際規格がワイヤレスなんです?」




