第62話 だからこそ我々のような民間組織が頼られるのだ
「どう……して……?」
「それはわたしが説明しよう」
父がわたしとローガンのあいだに割って入った。
「わがガードナー財団が業界トップなのは、要引揚者のサルベージ率の高さにある。そのためにあきらかに引き揚げが難しいと判断する患者は、なるべく受けないようにしているんだ」
「受けない?」
「高額な治療費をはらえる人物で、しかも比較的簡単に引き揚げができそうな案件だけに絞って患者を選んでいるのだよ。だから今まで我々は、『72柱の悪魔』のような強い悪魔にいきあたらずにすんだ。だが今回の件で、我々は自分たちがいかにぬるま湯のなかにいたか痛感させられたよ」
「オレはもっと強くなりてぇ。お嬢さんの能力を見せつけられて、あらめてそう思ったのだよ。それにこの程度の能力ではいつか命を落とすという危機感も感じた」
「でもなぜバチカンなの?」
「バチカンでは患者を選別しないからさ」
ビジェイが言った。
「国籍、宗教、身分、貴賤にかかわらず、すべての昏睡病患者に平等に扱ってるんだ。ま、でも実際にはほとんどの患者は助けられない。手遅れになってしまうんだ。ダイバーの数にも限りがあるからね。前世の記憶へのアクセスホールが閉じる前にダイブしてもらえる患者は、ほんのひと握りなんだ」
「だからこそ我々のような民間組織が頼られるのだ」
父が言った。すこしばつが悪そうな顔をしていた。
「バチカンは財力や権力がある人たちを優先してくれんからな」
「そこなら、嫌というほどダイブが重ねられる。ここみたいに客を選ばない分、危険度の高い前世に遭遇する可能性もあるが、力をつけることができるはずだ」
ローガンが力強く言った。
「お嬢さんもそうやって鍛えられたのなら、オレもまだ伸び代があるはずだからな。それにいろいろなタイプのダイバーたちとも潜ってみてぇ」
ローガンは一瞬、ビジェイに目配せした。
「ビジェイとは相性がよかったが、もしかしたらそれに甘えて本来の力を引きだせなかったのかもしれない。もっと相性があう属性のヤツがいるかもしれない。だからあえて過酷なバチカンを目指すことにした」
「ローガン、ぼくのことは気にしなくていい。実際、今この世界のトレンドは、複数のダイバーが協力しあって、要引揚者を効率良く救いあげる、ことを重要視しているからね。たしか国際会議で、国家機関、民間、個人、のダイバーを一元化し、統一した呼称で呼ぶって話が決まりそうだって……」
「サイコ・ダイバーズ」
父から発せられた名前は、はじめてきく呼び名だった。




