第61話 ローガンが会社を辞めるって?
「ローガンが会社を辞めるって、どういうこと?」
「エヴァ、ことばのままだよ」
父はわたしの剣幕に弱り切ったように、眉をよせた。
「この会社の希少なSS級ダイバーでしょう。なにがなんでも引き止めなきゃダメじゃないの!」
「引き止めたよ。高額の報酬を提示してね。だけど……」
「ビジェイは? ビジェイが言えば……」
「だめだった」
「なぜよ。なぜローガンは辞めるって……」
「お嬢さんのせいですよ」
ふいにドアの向こうから声がして、ローガンが入ってきた。
ローガンはちいさなボックスを抱えていた。
「わたしのせい……ってどういうことよ?」
「ことばのままですよ、お嬢さん」
「なによ。ローガンまでお父様とおなじことを……」
「エヴァちゃん、きみの能力があまりに強大すぎるからだよ」
背後から補足してきたのはビジェイだった。
「きみはあまりにレベルがちがいすぎた。ぼくらはすっかりと自信をなくしてしまったんだ」
「ぼくら? ビジェイ、あなたもっていうの?」
「ああ、ぼくもだ。本当はぼくも辞めたい気分だよ」
「どうしてよぉ」
「お嬢さん」
ローガンがしっかりとこちらの目をみて言った。
「オレはね。いい気になってたんだよ。この会社ではナンバーワンのエースだった。要引揚者のサルベージ率もトップだったしね。正直、世界でも屈指のダイバーだっていう自負もあった」
ローガンがため息をついた。
「だが、今回のダイブでそんなプライドはズタズタになっちまった。あの力量差を見せつけられちゃあ、だれだって落ち込むっていうモンだが、オレの場合はそんなモンじゃねぇ。このままダイバーを続けていていいのかって、自問自答する日々が続いてね……」
「いいに決まってるじゃない。ローガン、あなたは凄腕のダイバーよ」
ローガンが苦笑を浮かべながら、ビジェイと顔を見合わせた。
「お嬢さんの母上が、お嬢さんにどれほどの特訓をしいたかはわからねぇが、オレもそれくらい過酷な訓練を、おのれに課さねぇとダメだって感じてね」
「だったらここでそれをやれば……」
「バチカンから誘いがあった」
わたしはことばをうしなった。呆然としたまま、父とビジェイを代わる代わる見た。ふたりともわかっているようだった。
「それって……ダイバーズ・オブ・ゴッド」
「ああ、そのとおりだ。お嬢さん。じつは前々から打診があったんだが、バチカンからの依頼はいわばボランティアのようなものだから断ってた。そうは言ってもCEOはしっかり報酬ははずんでくれたからな」
「だったら……」
「今回、その誘いを受けることにした」




