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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ7 第二次ポエニ戦争 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
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第60話 そろそろ帰る時間のようよ

「CEO、あなたの娘さんは、こう言っちゃあなんですが、バケモンですな」

「そうですね。ぼくが認定されたSS級っていうのがむなしくなる」


「あ、ああ…… そうだな。ダイバーの階級そのものを見直さないといけないかもしれないな」

 

 わたしは階級やら序列やら、どうでもよかったので、その場を離れようとした。そのとき、リスクスのからだを淡い光が包みはじめていることに気づいた。


「お父様、ローガン、ビジェイ。そろそろ帰る時間のようよ」

 わたしはリスクスのほうを指さしながら言った。


「ああ、よかった。ジョン・ケイン議員の魂は救われた」

 父は天を仰ぎながら、ため息まじりに言うと、その足でハンニバルのところへむかった。


「ハンニバル将軍。そろそろわたしたちは、この時代から去らねばなりません」

「そうか…… リスクスは未練が果たせたのだな」

「ええ。なんとか任務を果たせました」

「そなたの娘の活躍で、わたしも助けられた」

 ハンニバルはちらりとわたしを見てから言った。


「将軍、将軍はこれからどうされるのです?」

 ビジェイが尋ねた。

 ハンニバルは難しそうな顔をすると、天を見あげた。虚空の一点を見つめているようだったけど、こちらをむいているのは眼帯をしている側の顔だったので、はっきりとはわからない。


 わたしはそのときはじめて、ハンニバルの顔に年齢なりの皴が刻まれていることに気づいた。

 はじめて出会ったアルプス越えのときは、まだ20代の若者だったのに、今は老境にさしかかっているような印象だ。たぶんわたしの父をそんなに変わらない、50歳すこし手前のはずなのに、ハンニバルのほうがより老成してみえる。


 あたりまえだ——


 戦いを日常とし、敵の死を糧としてきた人物なのだから……


「どうするかはわからん……」

 ボソリと将軍が呟いた。

「ローマを滅ぼす最後のチャンスかもしれん。だが、カルタゴは以前の勢いをうしなっている。それに……」


「わたしも戦いには、もう飽き飽きしたよ」



「平和もいいものですよ」

 父はただそう言った。将軍もうなずいただけだった。


「それではそろそろです」

 父のからだがふっと宙にうきあがったのがわかった。

 わたしのからだからも重力が消えた。

 リスクスのからだからジョン・ケインの上半身が抜け出し、幽霊のように透きとおったからだが上へとあがっていこうとするのが見える。


「将軍、お元気で」

 ビジェイがそう言うと、ローガンも続けて声をかけた。

「将軍、一緒に戦えて光栄でした」


 わたしは気のきいたことばが浮かばなかったので、ただ言いたいことを言うことにした。


「将軍、もうあんまりひとを殺さないで!」



 将軍は顔じゅうの皴をふるわせて、苦笑していた。

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