第57話 このバイクってなんに見えるかしら?
「決着をつけてやる。この場所なら仲間の援護も見込めまい」
「援護? わたしはローガンとビジェイに時間稼ぎをしてもらっていただけよ」
「時間稼ぎだと?」
「ええ。とっておきの武器を使うのには、精神集中が必要なの。だから時間稼ぎをしてもらってた」
「とっておきの武器だと。そんなものがどこにある!」
「フラウロス、わたしが乗ってる、このバイクってなんに見えるかしら?」
わたしはバイクのカウル部分をかるく叩きながら訊いた。
フラウロスは改めて問われて、わたしのバイクを矯めつ眇めつ見てから言った。
「銃だ」
わたしはバイクのボディに指をやさしく這わせながら言った。
「わたしね。このバイクのこと、ピストル・バイクって呼んでるの」
「それがなんだ。しょせんピストルだろうがぁ」
わたしは手元のスイッチを押して、目の前にスコープをたちあげた。覗き込んで、スコープに刻まれた十字をフラウロスにむけ、照準をあわせた。
「そう、『ピストル・バイク』って名付けたンですけどぉ……」
バイク正面にある射出口から、赤い光が漏れはじめた。
「飛び出す弾は……」
わたしはこれ以上ない笑顔をフラウロスにむけてから引金をひいた。
「ミサイルなの」
次の瞬間、バイクが吹っ飛ばされたのではないか、と思うほどおおきく揺れた。
空一杯に耳をつんざくような爆発音がひろがる。
あまりの大音響に、わたしは「きゃっ」と短く叫んでおもわず目をつぶったが、すぐに正面に向き直った。
そこにはなにもなかった。
さきほどまで視界をおおわんばかりに立ちはだかっていたテューポーンは消えうせていた。
下に目をむける。
テューポーンの巨体は真下に落下しようとしていた。翼を必死に羽ばたかせ、なんとか踏みとどまろうとしていたけど、頭がなかったので無理だとすぐにわかった。
頭を吹き飛ばされ、100本のドラゴンの首があたりに四散していた。それは地上で待機していたローマ兵の上から降り注ぎ、兵のおおくを押し潰していた。
テューポーンはあの蛇の尻尾を鞭打つようにのたくらせて、必死で翼を羽ばたかせてあがいていた。
最後のわるあがき——
だけど、その尻尾は地上にいるローマ兵をなぎ倒して、おおくの騎馬をはね飛ばし、翼のひとかきがローマ兵を空に巻き上げ、地面に叩きつけていた。
上空から見おろす地上は……
まさに地獄絵図だった。




