第56話 リスクスさん、撃って!
「リスクスさん、しっかりつかまってて。わたしがあいつとすれ違ったら、そのバズーカーの弾をできるだけ撃ち込んで!」
「でもさっき撃った……」
「心配ないわ。それ、無限に弾が撃てるから!」
そう言うとわたしはピストルバイクを横に引き倒し、一気にスロットルをひねった。こちらへ飛び込んできたテューポーンを真横にかわす。
バイクのすぐ横をテューポーンの巨体がすりぬけていく。
「撃って!!」
テューポーンの腹にバズーカーの砲弾が何発か撃ち込まれた。痛みに悲鳴をあげてからだをよじるテューポーン。
動きがとまる。
そこへ下方から放たれた、ビジェイの氷の槍が突き刺さった。
ウギャーアァァァ
テューポーンが空の上で悶絶する。
そこへすかさず氷の槍の柄をつたって、ローガンの炎が傷口から体内に潜り込んでいく。
グワァァァァァァァァン
さっきより苦しげな咆哮をあげて、蛇のしっぽが中空でのたくりまくる。
「上出来よ! ビジェイ、ローガン。それにリスクスさんも!」
わたしは歓声をあげたが、たぶん聞こえたのは真うしろに座っているリスクスだけだったと思う。
わたしはそのままバイクを直進させると、反対側の丘陵の上で停止した。
真下にはスキピオの陣営があった。
その手前にはザマの戦場から後退してきた数万のローマ兵もいた。そのだれもがこちらを見ていた。
わたしは陣幕のちかくに目を走らせた。
スキピオはすぐに見つかった。
仰々しいほどの数の護衛に囲まれて、こちらを睨みつけていた。
「スキピオ将軍! 残念だったわね。歴史通りにハンニバル軍を敗走させられなくて」
「なにを言うのか、小娘。マルケルス執政官はまだ負けていない! 見よ。テューポーンがこちらに向ってくる。そなたこそ、これで終わりだ」
スキピオが指さす先にテューポーンがいた。
翼を羽ばたかせて空にいたが、こころなしかふらふらとしている。かろうじて飛んでいるようにしか見えない。
「じゃあ、決着つけるわね」
わたしはハンドルをきると、こちらにむかってくるテューポーンの正面へと前進した。
100メートルも離れていない距離で、わたしはフラウロスと対峙した。
「まさか、ほかの仲間の力を借りるとはな」
「あら、一対一なんて言ってなくてよ。それに日本には『立ってるものは親でも使う』っていうことばがあるの。まぁ、お父様はなにも貢献してませんけどね」




