第55話 ローガン、ビジェイとの共闘
「ああ、そうだね。その程度だ……」
フラウロスの目がたくらみに満ちた邪悪さを帯びたのがわかった。
「では、そちらもその程度を避けてもらおうか」
その瞬間、テューポーンの頭から生えているドラゴンが一斉に火を吹いた。100頭から一気に放たれる炎の爆撃。
わたしはフラウロスの邪気を感じ取った時点で、攻撃をしかけてくると予測していた。
だから炎の先端がこちらに届く頃には、はるか上空へ上昇していた。
でも、その動きをフラウロスも読んでいたらしい。
テューポーンはその武骨な翼をおおきく広げて、二、三度、羽ばたきさせたかと思うと、ものすごいスピードで、空にいるわたしたちにむけてとびかかってきた。100メートルもある巨体とは思えないスピード。
鈍重にちがいない、大雑把であるべきだ、という先入観を、みごとに裏切った動きだった。
わたしは目の前に出現したテューポーンに、すこし面喰らいながらも、急ハンドルをきってバイクを反対にむけた。
のろまではないのはわかった。
でもこちらはそれ以上に小回りがきく。
スロットルをひねると、あっという間にテューポーンを後方へひきはなした。
「逃げるのかね」
背後からフラウロスが、ひとを小馬鹿にしたことばを投げつけてきたけど、わたしは無視した。わたしはハンニバルの陣営の上空まで後退した。
「エヴァ! 撤退しよう!」
下から大声で叫ぶ父の声が聞こえた。
わたしにとっては、フラウロスのなじることばより、父のことばのほうが、耳障りだった。
「ハンニバル様! みんな逃げてください。テューポーンがこちらに来ます!」
地上の兵たちの動きは速かった。騎兵が指さしで指示をすると、すぐに四方へ馬を駆り、
それに歩兵たちが続いた。
動いてないのは、父たち、マインド・ダイバーたちだけだった。わたしは地面にむかって叫んだ。
「ビジェイ! テューポーンの腹に氷の槍を、思いっきり突き立てて! ローガン、あなたはその穴から、火の玉を送り込んで! 倒さなくていい。すこし弱らせてちょうだい」
「わかった! エヴァちゃん」
「ああ、まかせておけ」
おおきな体躯を窮屈そうに翻して、テューポーンがこちらへむかってくる。蛇の尻尾のせいで、方向転換は容易ではない、とにらんだとおりだった。
「くるわ!」




