第52話 お父様。母さんが残したプレゼントを受け取って!
「あなたの手で決着を」
バズーカー砲をリスクスのほうへさしだしながら言うと、彼の表情がぐっと険しいものに変わった。
「俺っちの手で、あいつを討てるのか」
「はい。その引きがねを引くだけです」
「だが……」
「あなたはお父様の仇を討ちたくないのですか!」
リスクスは渡されたバズーカーに視線を落としたかと思うと、「討たさせてくれ」と強く言い放つなり、バイクの後部座席にまたがった。
「マリアちゃん、このバイク、タイヤがないじゃないか」
ビジェイが驚きを隠せないまま尋ねた。
「まぁ、ビジェイ。あなたほどの天才でも、現世の常識から離れられないのね」
「え?」
わたしは父のほうに目をむけた。
「お父様。母さんの残した『プレゼント』を受け取ってもらうわよ」
「プレゼント……それはなんだ?」
「エヴァ・ガードナーというSSS級のマインド・ダイバーですわ」
わたしは自信満々に嘯いてみせた。
「わたしがあの悪魔、フラウロスを倒してみせます」
わたしはバイクのスロットルをひねると、足元のペダルをゆっくりと踏んだ。
バイクがゆっくりと浮かびあがる。
「う、浮いた……」
ローガンがうわ言のように言った。ビジェイと父はことばを発しなかった。ことばをうしなっているようだった。
「リスクスさん、振り落とされないよう、しっかり捉まっててください!」
そう言うなり、ペダルをぐっと踏み込んだ。
わたしが『ピストル・バイク』と名付けた乗り物は、あっという間にテューポーンを見おろすような位置まで上昇していった。
------------------------------------------------------------
間近でみるテューポーンは、それまで現われたヒッポカムポスやミノタウロスの比ではなく凶悪にみえた。ゼウスを打ち負かしたという伝説も、妙に腑に落ちるような威圧感のようなものもあった。
上空から様子を窺っているわたしたちを、頭の上でうねっている100体ものドラゴンの首は、近づけさせまいと威嚇してきた。
ドラゴンたちはいくつもの動物の咆哮をはなってきた。そのどれもが耳を塞ぎたくなるような不快な鳴き声だった。もしかしたらなにか超音波のようなものが、混ざっていたのかもしれない。
それを我慢して近づくと、口から火を吐き威嚇してきた。
まるで火炎放射器のように、まっしぐらにこちらを目指す炎が吐きかけられた。
簡単には近づけなかった。




