第51話 SS級ってたいしたことないのね
「SS級ってたいしたことないのね」
わたしは本当に苛立ったので、本気でそう言った。
「わたしの母さんは、この程度のことで諦めさせてくれなかったわ」
わたしは父を睨みつけて言った。
「わたしは殺されそうになる間際まで、逃げることを許してもらえなかった。お父様に……いえ、アダム・ガードナーにいつか仕返しをするためにね」
「な、なにを言うのだ。エヴァ……」
「あなたが母さんと結婚したのは、愛情からじゃなかったでしょう。母さんのマインド・ダイバーとしての能力を必要としたからよね」
「あ、いや……それは……」
「母さんは世界レベルの凄腕ダイバーだった。でもわたしを産んだら、その力は次第にうしなわれていった。だからあなたは母さんとわたしの元から去ったのよね」
「ちがう」
「ちがわないっっっっっ!!」
わたしはこれ以上ない強い口調で父の弁明を否定した。
「母さんの思いをこれ以上踏みにじらないで」
わたしは地面に手のひらをむけると、渾身の力をこめた。地面にボンとおおきな穴が開く。いままでにないおおきな黒い穴。そのなかでは暗雲が渦巻いていて、その奥底にどれほどの深淵が続いているか、伺い知ることができない。
「母さんはお父様に捨てられても、ずっとお父様を愛していたよ」
わたしは母の姿を思い出した。
憐れなほどの献身。みっともないほどの未練——
涙がこみあげてくる。
「だから、わたしを鍛えたの。自分の代わりに、あなたの役にたつダイバーとしてね」
足元の暗雲のなかから、オートバイがせり上がってくる。
この世に存在しない、わたしが想像した唯一無二のバイク。
正面のカウル部分にヘッドライトの代わりに、おおきな穴があいた奇妙なデザイン。タイヤもない。まるで生えているようにみえるマフラー。それでいて全体のフォルムはバカでかい拳銃を思わせる。
「マ、マリア…… こ、これはなんだ?」
「あら、お父様、なんに見えて?」
「いや、オートバイ……なのか?」
「いいえ。これは銃よ。オートバイサイズのね。わたしの能力は『金』のつくものを生成する力。だからこれは銃よ」
そう言うと、砲身の上にあるシートにまたがった。
「リスクスさん! うしろに乗ってください」
わたしはリスクスに声をかけた。
「お嬢、なにを言ってるんだ? こんな妖しげなものに、とても乗れ……」
「あなたの手でマルケルスを討ってください」




