第50話 あいつを倒さないとカルタゴ軍は惨敗よ
ローマ兵が両側にわかれて、退却をはじめた。
スキピオの指示にちがいなかった。
兵が後退していくと、テューポーンが、蛇の下半身をくねらせながら進攻してきた。カルタゴ軍兵士は、100メートルはありそうなモンスターの異様な姿を目にすると、我先にと逃げはじめた。
さきほどまでは人間相手に命のやりとりをしていたけど、どんなに勇敢であっても、これほどの化物には敵わないと察したのだろう。
わたしは地面に投げ捨てていたバズーカーを拾いあげると、テューポーンに狙いをさだめた。標的はでかいので外しようがなかった。でもとても倒せるとは思えなかった。
頭頂部のドラゴンにまたがっているフラウロスに狙いをさだめる。
引金をひく。
砲弾が勢いよく飛び出し、テューポーンにむかって放たれた。
ズドーォオオン!!!!
モンスターの頭頂部分にいたフラウロスに着弾する、というところで、数体のドラゴンが首をクロスして、フラウロスを守った。
ドラゴンの首が何本か吹き飛ぶ。
が、そんなもの痛くもかゆくもないという顔で、テューポーンはこちらへ迫ってくる。
「ああん、もう。もうすこしであの悪魔を吹き飛ばせたのにぃ」
「エヴァちゃん、この位置からだと難しいよ」
「どこからなら、簡単なの? ビジェイ」
「いや…… 下から頭頂部を狙うのに無理がある」
「じゃあ、もっと高いところに登ればいいかしら」
「ああ、そうだけど、この丘をあがったところでたかがしれている。あまり遠くに離れるわけにはいかない」
「でもあいつを倒さないと、カルタゴ軍は惨敗よ。歴史通りにね。そしてわたしたちは、リスクスさんの未練をはたせずに、ミッション失敗よ」
そう言いながら、馬上のハンニバルのほうを見あげた。
ハンニバルは悔しそうに顔を歪めたまま、戦場のほうを見つめていた。
敗走をはじめたカルタゴ軍を、テューポーンのうねうねとくねる足がはね飛ばし、その進行先にいる兵たちを潰しながら、こちらへむかってきていた。
「CEO、もう諦めましょう」
ローガンが痛みに顔をしかめながら提案した。
父はがっくりと肩を落としたまま、軽くうなずいた。
「オレの炎の力は、おなじ炎を操るあのテューポーンとは相性がわるい。ビジェイは水源がないので力を発揮できねぇ。CEOに時間を巻き戻してもらっても、30秒程度ではなんの対策も打ちようがねぇ」
「これだけ不利な状況で、ソロモンの72柱に名を連ねる強い悪魔を相手にするのは、我々SS級であっても危険のほうがおおきいですよ」
ビジェイが早口でローガンに賛同の意を唱えた。
「たいしたことないのね、SS級っていうのも」




