第46話 マルケルスを倒しにいくのよ
そのあいだに地面の下を、地下水を凍らせながら、ビジェイの氷が正面の軽装歩兵たちに迫る。そして彼らの足元までくると、氷柱が兵たちの足を地面に固定した。突然動きをとめられた兵士たち。
それまで一方的に斬られていたカルタゴ兵が、反攻をはじめる。どんなに傷を負っていても、命がある限りは剣をふるって、ひとりでもふたりでも戦力を削った。
戦況はカルタゴ軍にすこし優位に傾きはじめた。
だが、それで終わるわけがない。
「マルケルスはどこ?」
「あそこにいる! あのアルキメデスとかいう爺の隣だ」
リスクスの指さす方角をみると、投石機の横で談笑しているマルケルスがいた。
なにを言っているのかわからない。
だが、楽しそうに談笑しているのは確かだった。
「まったく余裕じゃないの!」
わたしは大股歩きで、丘の斜面をおりはじめた。
「嬢ちゃん。ひとりでどこにいくつもりだい」
ローガンがローマ兵への攻撃を緩めようともせず、あらたな火種を発火させながら言った。
「マルケルスを倒しにいくのよ」
「無茶だ。エヴァちゃん、ぼくらの攻撃がある程度落ちつくまで待って」
「大丈夫よ、ビジェイ。もしわたしがやられたとしても、お父さんが時間を巻き戻してくれると思うから」
「エヴァ。無茶を言うな。このリスクスは、いやジョン・ケイン議員の未練の力は、わたしの力を最大限にまで引きだせるほど強くないんだ」
「30秒くらい戻してくれれば、なんとかするわ。できるでしょ? お父さん」
「3、30秒でなにができる」
わたしは地面のほうへむけて手をかざした。ボワンと黒い穴があいて、そこから機銃の銃床がすっとせり出してきた。わたしはそれを掴むと、安全装置をはずして構えた。
「機関銃のひとつくらいは出せるわ」
「あぶない!」
リスクスが叫んだ。
わたしはとっさにからだをすくめた。
その頭の上をなにかがかすめていった、かと思うと、ドーンという派手な音がして、近くでなにかが炸裂した。
なに——?
わたしはなにかが飛んできた方をみた。
そこにゆうに5メートルはあろうかというモンスターがいた。
牛の頭をしたモンスター。
そのモンスターは足元から、おおきな石を拾いあげると、こちらにむかって投げつけてきた。
投石機などとはちがう、放物線など描かない直線で、岩が飛んできた。わたしの横をすり抜けて、ビジェイの近くに落ちて、あたりの地面を削り取った。
破片が飛び散り、ビジェイのからだにその破片が直撃した。
ビジェイがその場に膝をつく。




