第45話 カンナエの戦いの再現
逃げ道を絶たれたカルタゴ兵は、死にもの狂いで戦ったが、戦場はローマ兵たちによる一方的な殺戮となった。みるみるうちにザマの地はカルタゴ兵の血に染まっていった。
濡れた大地に兵たちは足を滑らせ、積みあがった屍が邪魔になって、ローマ軍の進軍を阻むまでになった。
ハンニバルの反攻はここからだった。
殺し疲れしているローマ兵にむけて、それまで温存していた子飼いの15000の精鋭を投入した。
だが、若きスキピオは、迫りくるカルタゴのベテラン兵を前にして、陣形の立て直しを命じた。
信じられないことに、負傷者を後方へ運び出し、軽装歩兵たちに託すと、戦場を埋め尽くす敵兵の死体を脇に片づけた。そしてすぐに弓形の陣形をとって、15000もの兵を待ち受けたのだ。
ハンニバルの精鋭は勢いにまかせ、中央突破へとうってでる。数は多くとも疲弊しているローマ兵は、しだいにおされはじめ、弓状の陣形が徐々におおきく凹みはじめた。
中央突破は時間の問題かと思われた。
しかし、その両脇からローマ軍の軽装歩兵たちが、ハンニバル軍を取り囲んでいた。負傷者運びだすため後方へ戻っていた兵が、戦場へ戻ってきたのだ。それでもハンニバル軍の精鋭はひるむことがなかった。
そこへ後方からハンニバル軍の騎兵を撃破したヌミディア騎兵が襲いかかった。
いつの間にかハンニバル軍は四方をローマ軍に囲まれていた。
14年前にカンナエの平原で起きたことが、ザマの平原で再現されていた。
ちがうのは、仕掛けたのが考案者のハンニバルではなかったということだった。
「ハンニバル。わたしたちに加勢させろ!」
ローガンが苛立ちを爆発させた。
「将軍、あなたの隊が全滅しますよ!」
ビジェイも声を荒げる。
ハンニバルは奥歯をぐっと噛みしめたまま、アルプス越えを共に乗り越えた精鋭たちが、なすすべもなく切り刻まれている状況を見ていた。そしてその噛みしめた歯のすきまからことばを絞りだした。
「アダム、頼む。わたしの兵を救ってくれ」
ローガンが地面にてのひらを押し当てた。
幾筋にも枝分かれしながら、地面を業火が走っていく。
そしてヌミディア騎兵たちに近づくと、その炎は鎌首をもたげて彼らに襲いかかった。彼らはカルタゴ兵への攻撃に集中していて、その炎にまったく気づいていなかった。
ローガンの炎がヌミディア騎兵たちを飲み込みはじめる。




