第44話 アルキメデス参戦!
「戦象がローマ兵を蹴散らすぜ!」
ローガンは緊張感に顔を強ばらせていた。
その瞬間だった。
ドーンという音がしたかと思うと、先頭を走っていた戦象がいきなりつんのめると、その場に崩れ落ちた。象の上に乗っていた象使いが空中に放りだされる。
なに?
その隣の象が崩れ落ちた。
まきあがった土煙のなかで、巨象のシルエットがいきなり消えるのだけがわかる。
次はうしろから続いていた象の番だった。
縦に連なって突進している象が、あちらこちらで倒れていく。
「あ、あれ!!」
リスクスが彼方を指さした。
ガラガラと音をたてながら、おおきな機械が何基もこちらにむかってきていた。一台の機械が動きをとめたかと思うと、ついていたアームがブンと動いて、なにかをはね上げた。
「投石機だ!」
ビジェイが叫んだ。
移動式の投石機が戦象を狙い撃ちしていたのだった。
その機械の袂で、兵たちを指揮していたのは——
アルキメデスだった。
遠めにみても、その戦果に満足げで、相好を崩している顔がわかる。
「まずい。象がすっかり怖じ気づいて、動かなくなってしまっている」
父はすっかりからだを乗り出していた。
「いや、CEO、もっとまずい」
投石機にはねあげられた石のひとつが、カルタゴ兵たちが並ぶ列の一画を切り崩したのがみえた。
「このままだと、ローマ兵と剣を交える前に全滅させられる!!」
ハンニバルが兵たちに突撃を命じた。
ローマ兵と対峙したまま、負けてしまうわけにはいかない、という判断なのだろう。
初手で奇襲をうけたハンニバル軍は、戦いがはじまるとさらに苦戦を強いられることになった。
数ではローマ軍より3000も多くの歩兵を投入していたが、寄せ集めのカルタゴの傭兵では、精鋭のローマ兵との戦力差を埋めきれなかった。
そのあいだに両翼から攻め上がっていたヌミディア騎兵が、カルタゴの騎兵を圧倒しはじめると、カルタゴ軍の中央の両脇が完全に無防備状態になってしまった。
スキピオはすぐさま、正面に加えて両脇から攻撃を重装歩兵に命令した。
三方から攻められはじめたカルタゴの傭兵は完全に浮足だった。後方にしか逃げ場がなくなり、後退しはじめたが、そこにハンニバルのベテラン兵が抜刀して待ち構えていた。
逃げてくる兵は味方であっても斬れ—— だった。




