第36話 こんな荒っぽい移動方法!
きゃぁぁぁぁぁぁぁ……
気づくとわたしは叫んでいた。
こんな荒っぽい移動方法をされて、恐怖しないひとはいないはずだ。
ビジェイはウインクするなり、崖の上から丘まで氷の橋をかけた。上のほうから下方へなだらかな傾斜で伸びていく氷の橋は、あっという間に数キロ先まで到達した。
「ここを……どうするの?」
「決まってるさ。滑っていくんだよ」
そういいながらビジェイが、氷でなにか立体物を造りはじめた。人が乗れるほどの大きさで、ぱっと見た感じ、気球の下につけるゴンドラのように見えた。
実際に見たまんまゴンドラで、氷の橋の上に乗せられたそれに、わたしたちはすぐに乗り込んだ。
だけど、乗り心地は想像を越えていた。
氷のゴンドラに乗って、斜めになった氷の橋をするすると滑り降りる、と思っていたのだけど、そんなスピードではなかった。
ローガンが氷の表面を火の力で溶かしはじめると、ゴンドラはジェットコースターさながらの猛スピードで滑降しはじめたのだ。
こんなのだれだって叫ぶにきまってる。
ハンニバルがいる丘まで数キロメートルあったはずだけど、ものの数分でそのたもとにたどりついた。体感的にはもっと長い時間だと思えたけど、どうやら数分だったらしい。
「はははは…… お嬢ちゃん。お子様にはちょいと刺激的すぎたかね」
到着するなりローガンが笑いながら言った。さきほどまで(と言っても14年前だけど)仏頂面だったくせに、もう上から目線の表情を浮かべている。
「急ぐぞ」
父に促されるようにして、わたしたちはハンニバルの元にむかった。
ハンニバルはわたしたちが、無茶苦茶な方法でこちらへショートカットしてくるのを見ていたらしく、呆れ返った表情をこちらにむけてきた。
「ひさしぶりだな、未来人。にしてもずいぶんユニークな登場だな」
「ええ、将軍、14年ぶりです。あれからなにがあったんです? すぐにローマ攻略に動いたのではないのですか?」
父は責立てるような言い方をしたが、ハンニバルは表情を変えることなく、ぼそりと言った。
「歴史は変えられなかった……」
「変えられなかった?」
「ああ、そなたらの忠告にしたがって、あれからローマへ進軍した。その途中の同盟都市や植民都市を、カルタゴ陣営に引き入れながらな。カンナエの会戦でのローマ敗戦は、想像以上に効果があって、ほとんどの都市がこちらへ寝返ってくれた。だが……」
ハンニバルがおおきくため息をついた。
「トレッビア、トラジメーノ、カンナエと、あれほどの敗戦を立て続けに喫しながら、ローマは気落ちするどころか、逆に決意をかためた。おおくの同盟都市を離反させたものの、裏切らなかった都市とは、より結束が強くなり、資金援助や兵隊の補充の申し出がひきもきらず、すぐさま以前を越えるほどの軍隊を再構築したのだ」




