第32話 エヴァ、ヒッポカムポスと対峙する
「日本語の『金』が含まれる文字のなかにね……『銃』……っていうのもあるの」
「銃!!! これだから平和の国、日本人ってヤツは!! お嬢ちゃん、相手は500体だ。銃一丁でなんとかなる数じゃねぇよ」
ローガンがなかば怒り気味に言った。
「あら、ローガン。あなたって銃社会の住人のくせに、想像力が乏しいのね」
「なにぃ」
「ハンドガンが『銃』でないでしょう」
わたしはビジェイにむかって言った。
「ビジェイ、わたしが合図したら、この氷の壁をなくしてくれるかしら……」
「エ、エヴァちゃん。そんなことしたら、|蜂の巣《bullet-riddled》になってしまう」
「ええ。その通りよ、ビジェイ……」
わたしの足元の空間から、せりあがってきた『ガトリング・ガン』に手をかけてから言った。
「むこうがね」
「な、なんだ…… そ、その銃は…… そんなの見たことないぞ」
ローガンの声はなぜか裏返っていた。
まさか、うろたえてる?
「あら、ローガン、あなたやったことないの?」
わたしは腰を落として、ガトリングガンを構えてから言った。
「これ、コンピュータゲームの『バイオ・ハザード』シリーズに出てくる『無限ガトリング・ガン』よ」
その瞬間、ビジェイの氷の壁が砕けた。
ヒッポカムポスの間断のない水の弾丸攻撃に、とうとう耐えきれなかったみたいだった。
氷の上部が崩れて、向こうの様子がかいま見えた。
「ビジェイ。あなたの見立て、まちがえてたわよ」
「敵の数、500じゃない……」
わたしはビジェイにウインクした。
「たぶん一万体はいる」
わたしは10000の敵にむけて、ガトリング・ガンの引金をひきしぼった。
ブーーーーンといううなるような音。
とたんに数百発の弾丸が一斉に放たれる。
ガガガガガガガガがガガガガガガガガ!!!!!!!
耳をつんざくような銃声。
この時代のひとはけっして耳にすることのない音。
銃口を左右に横にふる。
薙ぐようにしてビジェイの造った氷の壁が砕かれていくと、むこうに群がっていたヒッポカムポスが見えた。
が、そう思う間もなくバタバタと倒れていった。
わたしは無心で引きがねを引き続けた。
ふと、かなたのアドリア海のほうに視線をむけると、すでにカルタゴ軍とローマ軍の戦いに決着がついていることがわかった。
わずか2キロ平方メートルほどの平原は、七万もの死体で埋め尽くされていた。
歴史通り、ローマ軍はほぼ全滅……していた。




