第31話 エヴァが願った力(ギフト)
わたしはローガンとビジェイのほうへ目をむけた。
ローガンは炎の盾でハンニバルを守っていたし、ビジェイもあらたに正面に氷の壁を築いて、水の弾丸を防いでいた。
だけど炎を一瞬で通り抜ける水の弾丸の一部は炎をくぐり抜けたし、おびただしいい数の水の弾丸を打ち込まれ、氷の壁は次第に削りとられ、ヒビ割れて、今にも砕け散りそうになっていた。
「ビジェイ。敵のヒッポカムポスの数、わかる?」
「氷の壁で遮っているから正確な数はわからない。だけど水の感触から、500体くらいいるのは間違いない」
「ほんとうに?」
「ああ。氷の波動を通して、息吹が伝わってくるんだ」
「わかったわ。ビジェイ、あなたを信じるわ」
わたしはゆっくり立ち上がると、ビジェイがつくっている氷の壁の近くまで進んでいった。
「エヴァ、なにをしている。危ないぞ」
「そうだよ、エヴァちゃん。ぼくの氷の壁はいつ壊れてもおかしくない」
近くに寄って見ると、たしかにぶ厚い氷には縦横無尽にヒビが刻まれていて、壁のむこうから聞こえる弾丸の着弾音とともに、すこしづつ広がっているのがわかった。
「お嬢ちゃん。あんたにできることはねぇ。すまねぇが、オレたちの邪魔だけはしないでおくんなせぇ」
ローガンが歯を食いしばった隙間から、叫んできた。
「ローガンの言う通りだ。エヴァ、おまえは引っ込んでなさい」
わたしはくるりと振り向くと、父を見つめて言った。
「お父様。わたしの力のことは言ったわよね」
「ああ、聞いたとも。おまえの力は『金』だと」
「ええ、その通り、わたしが願ったのは『金』という『金』……」
「でもそれって『金』のことじゃないの」
「お金だけじゃない?」
「日本語って不思議なのよ。金属で造られたものには、すべて『金』っていう文字がつくの」
わたしは地面にむけて、手をかざして力をこめた。
「たとえば『鉄』製の『針』や『釘』。生活用品の『鋏』や『鋲』。農機具の『鎌』や『鋤』。武器の『銛』や『鎗』。素材の『金・銀・銅』、そしてもちろん『金もね』
手の下の地面にぽっかりと穴があいて、黒々とした空間が現われた。
父もローガンもビジェイも、わたしの足元に出現したブラック・ホールのような空間に目を奪われていて、わたしのことばを聞いてるのかわからなかった。
でも父は一応聞いてくれていたみたいで、夢遊病者のような表情だったけど、なんとか反応してくれた。
「エ、エヴァ…… そ、それは、ど、どういう意味なんだ?」




