第30話 アダム・ガードナーの力(ギフト)
ふっと意識が戻る。
「逃げないと!」
リスクスの声が聞こえた。
「あれは俺っちを狙ってるんだろ」
そう叫んでリスクスは立ち上がろうとした。
そのからだに父が飛びかかった。そしてリスクスのからだに覆いかぶさるようにして、地面に伏せさせた。リスクスのからだが地面にたたき伏せられた。
そのはるか上を氷の弾丸が飛んでいく。
なにが——?
わたしには意味がわからなかった。
今の今、リスクスはわたしの目の前で蜂の巣になって死んだはずなのに、一瞬ののちにその運命が変わって、ギリギリのところで命を拾っている。
父はリスクスの背中の上から、身をはがすと、リスクスに「絶対に立ち上がるな」と厳命して、ゆっくりと中腰になった。
「お父様、今、なにが…… なにが起きたの?」
父は炎の盾をかいくぐって水の弾丸が飛んでこないか、気を配りながら言った。
「エヴァ。これがわたしの力だ」
「どんな力……なの?」
「わたしは『時間』を願った。そして時間を自在に操る力を手に入れたんだ」
時間を自在に——?
「時間を巻き戻したの!!!?」
「ああ、ほんの30秒ほどね」
「最強じゃない!! 失敗してもなんどでもやり直せるわ」
「それがそううまくいかないんだ」
父の口調はその能力に見合わないほど、自嘲気味に感じられた。
「この力はほかの力に比べて、要引揚者の『未練』の強さにより大きく影響される。残念ながら、このリスクスの未練では30秒巻き戻すの精いっぱいだ」
「未練の力が弱いってこと?」
「ああ…… 残念ながらね」
「でも30秒もあれば、大概の危機は切り抜けられるわ」
「そうはいかない」
そのとき、上から弓なりになって降り注いできた水の弾丸が、伏せているリスクスのからだを貫いた。
「リスクス!」
父が叫ぶと同時に、あたりの風景がぎゅるぎゅるっとまた歪んだ。
次の瞬間、父がリスクスにかけより、伏せている彼の体を掴んで引っぱっている姿が目にはいった。
そこへ上から水の弾丸が降り注いできた。
間一髪というタイミングだった。
なんとか着弾箇所から体を移動させるのに成功したけど、あやうくリスクスの脚に弾丸が当たるところだった。
「ギリギリだったじゃない!」
「ああ、さっきより5秒以上時間が短縮されてる」
「なぁに。だんだん短くなるの?」
「そうだ。未練の思いが強ければ数時間も余裕があるんだが、彼の場合最初の時点で30秒しかなかった。これではあと数回も喰らえば、助けられなくなる」
わたしは肩を落としてため息をついた。
「お父様。お父様の時間を操れる力ってスゴイ能力だと思うわ。でもこれじゃあ、役にたたないじゃないの」
「うむ。それまでに手をうたねば……」
「このミッションは失敗する」




